下肢閉塞性動脈硬化症(ASO)は、心筋梗塞・脳梗塞などの原因にもなる全身性の動脈硬化症が下肢に発症し、血管が閉塞する疾患である。ASOが重症化すると足先が壊死し、最悪の場合には下肢切断を迫られ、その影響は歩行困難に伴うQOL(生活の質)の低下から、心肺機能の低下による生存率の影響まで及ぶ。ASO治療法の代表例に、ステント留置による血流再開がある(図1)。しかし、金属製のステントは血栓形成や炎症反応を惹起し、血管の再狭窄を起こす問題があった。
本開発では、ステント留置後、長期にわたり血栓形成のリスクを低減する、膝上の浅大腿動領域のASO治療用薬剤溶出性ステントを試作する。具体的には、ステント合金材料の力学特性に基づくシミュレーションにて、血流を邪魔しないよう薄型でありながら、血管内腔の保持力が高く保てるような構造を設計する。ステントの表面には、優れた抗血栓性・炎症性を有し、生体に刺激を与えないフッ素添加ダイヤモンドライクカーボン(F-DLC)を搭載する。併せて、薬剤徐放量を適切にコントロール可能なポリマーを開発し、F-DLCの上に薬物溶出性・生分解性ポリマーコーティングを被膜する。2層のハイブリッドコーティングにより、ステント導入後、初期の細胞異常増殖を薬剤で抑制し、薬剤溶出後にポリマーが消失した後、F-DLCが表面に現れステント表面に対する血小板付着や炎症反応を恒常的に抑制する(図2)。
本開発により、長期にわたり再狭窄の抑制効果に優れた浅大腿動脈治療ステントが実用化されると、ステント治療後の再手術の必要性を大幅に低減でき、多くのASO患者の福音となる。
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