現在、がん検診は、定期健康診断などに機会が限られ、検査方法が採血や大型装置を伴う病院での受診が必要などハードルが高く、発見や治療の遅れにつながることが懸念される。本申請では、簡易に採取可能な涙液中の細胞外小胞を測定対象とし、どこでも検査可能ながん検査装置を提供することで、がん発見の遅れによるがん死亡者の低減や、罹患者の再発や転移の恐怖に対するQOLの向上を目指す。
神戸大学の独自技術で、株式会社 TearExoが実用化を目指しているTearExo法は、センシングチップ表面の抗体と蛍光レポーターを収めた空孔にがん由来の細胞外小胞が結合することで検出が可能であり、従来法(ELISA法)に比較し50〜100倍の感度を有するため、これまで検体とされてこなかった微量の涙液を検体とすることを可能としている(図1)。がん細胞から放出される細胞外小胞はがんに関連しており、より正確ながんの検出が可能となる。涙液は、採取が自宅でも可能なほど容易な上、唾液、尿、血液に比し、不純物の割合が小さいことから、検体として優れている。
ELISA法では、検出標識を十分洗浄しないとノイズが大きくなるが、TearExo法は蛍光標識が基板に固定されているため洗浄工程が必要なく、また空孔内のみでしか蛍光変化が生じないので背景が暗く、光量変化が顕在化し、検出のS/Nが向上する(図2)。マンモグラフィや画像検査がファーストスクリーニングで検査ハードルが極めて高い乳がんを当初の検出対象とし、複数種のがん関連マーカーの同時測定を可能とする可搬型小型がん検査装置の開発を本助成にて行う。抗体と蛍光標識を内包する空孔を有する基板の製造方法は確立しており、デスクトップ上で1種類の細胞外小胞表層のがん関連マーカーに対応した検査技術の要素開発は完了しており、自社開発により、より強固な権利化を進めている。
可搬型にすることで、クリニック等の医療機関はもちろん、イベント会場や献血会場などで簡易にその場検査が可能となるため、がん検査を日常のものとすることができ、がんに対する検査のあり方を変えるなど、大きな社会貢献が期待できる。
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