う蝕(虫歯)を削る治療では、適切な硬さまで削ることが医学的に推奨されており、その尺度としてヌープ硬さが採用されている。現在、ヌープ硬さ評価は医師の経験と感覚に依存している。開発する測定器は、ヌープ硬さを歯科治療時に、簡便かつ客観的に測定、評価できるようにするためのもので、適切なう蝕治療の基盤となる。
測定器は歯の治療部に押し当ててヌープ硬さを測定、表示するハンディ型の装置である。PCなどに接続、分析する必要はなく、装置単体で測定と表示が可能である。硬さ測定の原理は外筒に対する圧子の変位を歪ゲージで検出する(図2左下)というシンプルなものである。治療時にハンディ型端末をう蝕部に押し当てる姿勢はまちまちであり、どの姿勢で押し当てても正確に硬さを測るために圧子の軸受け形状に特徴があり、特許を出願している(図2左上)。また、技術開発企業はソフトウェアを含めたシステム開発に実績があり、特許の機構だけで除去しきれないバラツキやアーティファクトを、ソフトウェア上の前処理や数理的な姿勢補償によって解決する計画である。同様のヌープ硬さ計はPCとの接続が必要で高額なものしかない。開発する測定器は25万円程度の売価を想定しており、低価格で扱いやすい点で優位性が高い。
近年、高齢者の歯の残存数が増える一方で、歯肉の退縮による「根面う蝕」が多発しており、う蝕治療も増加傾向にある。高齢者では、歯を残しつつう歯を適切に削る治療が重要であり、ヌープ硬さの客観的評価に基づく適切なう蝕治療が求められている。開発する測定器は、う蝕治療の適正化に大きく貢献し、高齢者の口腔機能と食生活を守るという点で社会的意義がある。開発する装置の臨床評価には、すでに5つの歯科大学病院との協力関係が築かれており、学会での評価報告を通じて普及を図る。
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