現在、世界人口が増加しているのに対し、我が国を含む先進国では人口、出生数の減少が加速している状況にある。また、国内の不妊治療の現状では、出生の11.6人に一人が人工授精による。ここで受精卵の培養が約70%の成績に比し、妊娠率は約20%と低い。この要因として、受精卵の良好な胚への成長過程に課題があると考える。本申請では、高額、精神的・肉体的苦痛を伴う不妊治療の確度を高め、子を望む人々の希望に沿うインキュベーターの実現を狙う。
受精卵は、不妊治療では生体外の過酷な環境にあり、従来、培養容器内ではpH、温度、圧力などを安定させることが一般的であった。今回、申請者は、培地のpHを培養前期から後期にかけ、下げていくことで良好胚の割合が高まることを確認し、生体内での受精から胚盤胞の環境を再現することを可能とするインキュベーターを提案した。pH制御は培地のCO2濃度を制御することで実行可能であるが、そのタイミングはタイムラプス画像などを用いて生体内のどの時期に受精卵があるかを推定しpHを制御する(図1)。培地へのCO2ガス置換は圧力と温度との関係も深く、培養環境の変動の影響を計測、調整しながらの制御が重要となる(図2)。
本技術により良好胚の割合を高めることができれば、結果として妊娠率の向上が期待される。従来の常識化されたインキュベーターの培地環境制御に対し、不妊治療施設におけるインキュベーター等の胚培養関連機器の国内シェア7割を有する申請者がリスクを覚悟で挑戦をすることで、新たな技術の効果を一気に普及させることが可能になると考える。
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