人工硬膜は手術や事故などによって欠損した脳の硬膜を補修する材料で、現在はPTFEを延伸したePTFEが広く利用されている。ePTFE は生体接着性が極めて低く、脳と癒着を生じないという優れた特徴を持つが、綿密縫合を必要とし、縫合時の針穴から髄液漏れしやすいという課題を持っている(図1)。これに対して、縫合に加えて生体組織接着剤(フィブリングルー)が用いられるが、ePTFEとの接着性は十分ではなく、髄液漏れを確実に予防する事は難しかった。
本技術開発はePTFE表面にイオンビーム照射を行うことで、生体接着性、フィブリングルー接着性を発現させ(図2)、髄液漏れを確実に予防可能な新規人工硬膜を開発する。また本開発では人工硬膜の素材となるePTFEの材料から見直し、この材料に最適なイオンビーム照射条件を組み合わせることで、従来よりも薄く、かつ高い生体適合性をもつ人工硬膜を開発する。
本技術開発により実現される人工硬膜は、生体接着性、フィブリングルー接着性が良好であるため、針穴からの髄液漏れを確実に防止できるだけでなく、綿密縫合が不要となる。しかも薄くハンドリングしやすくなるため手術時間が大幅に短縮できる。また経鼻的下垂体腫瘍摘出手術の様に縫合が不可能な部位での手術では、フィブリングルーだけで組織に固定可能な本人工硬膜によって、感染症の原因となる髄液漏れの発生を劇的に低減することが可能となる。
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