腰痛は、国民の約1/5以上が症状を訴え、その約半数が通院治療を受けている代表的疾患である。圧迫することにより腹腔の内圧を高め、腰への負担を軽減するサポーターが一般的な治療手段であり、8割強の患者で痛みが改善するが、一方で約1/3近い患者が装着感に不満を持っており、また予防効果についても医学的に一致した見解がない。申請者は、再発予防まで視野に入れた、快適に装着できる新たなタイプの腰痛改善ウェアの開発を、本助成により進める。
申請者らは、脊柱起立筋、広背筋、大殿筋の走行に沿った部位では触覚刺激に対して体性感覚が強く生じて姿勢変化が促されること、その結果、不良姿勢のために起こる筋・骨格への負担が軽減され、腰痛が緩和されることを見出した。またそうした部位に、ナノファイバー生地を接触させることで、動作時に、繊維が皮膚の皮溝・皮丘に入り込み、効果的に摩擦刺激を与え、体性感覚を誘発できることを確認してきた。特殊生地を脊柱起立筋、広背筋に沿った部位に配した着衣の効果を評価する先行研究を福島医大にて行った結果、軽度な腰痛を訴える看護師61名に対して約3/4の姿勢変化を確認してきた。本開発では、効果的な触覚刺激の付与が可能であるとともに肌着・下着のように長期間快適に装着できる、密着はするが圧迫がかからない形状・構造の生地及び着衣を、信州大学の協力を得つつ協力企業と共同開発するとともに、九州大学における脳機能計測と、福島医大における中度以上の一般的な腰痛患者200名に対する長期装着試験を実施して、姿勢改善・腰痛改善、再発予防の効果と装着快適性について検証する。
治療機能のエビデンスを獲得することによって、新たな快適な装具を広く一般に普及させることができれば、国民の健康生活に直接的に大きく資するのみならず、介護等過酷な肉体労働現場における労働環境の改善を通じた労働力維持にも貢献することが期待される。
|