患者に深刻な合併症を引き起こす手術後の癒着(切開創と接した臓器がくっつき、腸閉塞など重篤な症状を誘発)は、日本国内だけでも消化器外科/一般外科で55万例、産婦人科領域で15万例ある手術における普遍的な問題となっている。シート状の癒着防止材が海外より導入・上市されているが、操作性が悪い、腹腔鏡下手術に対応が難しい、凹凸のある臓器や細かい術部に対応が難しいだけでなく、臨床上の有効性も必ずしも十分ではない。
非ラメラ液晶には、水分を包含することで生体適合性を兼ね備えた上、疎水性の表面による生体付着性を有する特徴があり、一定期間の物理的バリア性が必要な癒着防止材に最適と考えた。しかしながら、低温でも安定な非ラメラ液晶をしかも容易に形成できる原料はなかった。本開発では、独自原料のテトラヒドロファルネシル酢酸グリセリルで上記課題を克服した非ラメラ液晶をナノ微粒子化することによって、操作性・視認性が良く、有効性が高い液状の癒着防止材への応用を目的としている。
本開発により、プレフィルドした単材をスプレーするだけの簡単な方法で癒着防止が可能となり、従来のシート状では適応が難しい様々な部位や手術方法(腹腔鏡下手術など)に対応できるとともに、より優れた癒着防止効果が期待でき、患者の負担低減に大きく寄与できると考えられる。
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