現在先端医療の分野では遺伝子の導入にウイルスベクターを用いた手法が多く用いられていますが、ウイルスの特性上予期できない作用が発生することが避けられませんでした。また植物細胞など外壁をもつ細胞への遺伝子や蛋白質などの生体高分子の効率のよい導入方法はなく、遺伝子の導入にはウイルスやバクテリアが多く用いられています。更に細胞内に移行しづらい医薬品(特に高分子医薬品)などを容易に導入する方法の確立は医薬品の投与方法にとってブレークスルーになる可能性があります。
我々は組織や細胞に障害を与えることなく遺伝子・蛋白などの生体高分子や医薬品を導入できるプラズマ遺伝子導入の基礎技術を有しており、本助成によりさらなる技術開発と試作機の作製を目指しました。
我々独自の技術であるプラズマを用いた分子導入方法は2004年に特許化されましたが、実用化に際しては、プラズマの安定性の問題から、(1)導入効率が不安定、(2)低い細胞障害性と高い導入効率が十分に両立されていない、などの課題がありました。
我々は、新たに愛媛大学神野・本村研究室の参加を得て、プラズマの照射方法をマイクロキャピラリーを用いた微細プラズマとし、プラズマを時間的空間的に安定化させることで細胞に対するプラズマの作用をコントロールし、導入効率の安定化を達成しました。
また、レーザー変位計を用いた位置決め技術を導入することで、細胞とプラズマとの距離を微細にコントロールできるようになり、低い細胞障害性でありながら高い遺伝子導入効率を達成し、従来からの課題を克服することに成功しました。
さらに、プラズマ照射部を自動化ロボットに装着しコンピュータコントロールすることで、多数のサンプルを安定した条件で処理可能な実用化を目指せる試作機を完成することができました。
今後、装置の信頼性や耐久性などを高めると共に、多種多様の細胞での導入検討を行い、プラズマ照射の条件を自動設定できる装置として市販化することを目指しています。
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