医療分野における様々な新規技術の開発はめざましいものがありますが、手術を行う際には必然的に麻酔が行われます。近年はガス麻酔に換わり、静脈麻酔が主流になりつつあります。静脈麻酔薬として広く使用されるプロポフォールは、麻酔の導入・覚醒が速やかで調節性がよく、集中治療における人工呼吸中の鎮静においても、鎮静深度の調節性に優れ、意識の回復が速やかであるといった特長があります。しかしながら、麻酔薬はいずれも投与量が適切でないと重篤な副作用を示す場合があります。代謝挙動、つまり麻酔深度と直接関係する血中濃度を手術中に採取・分析できないため、薬物動態モデルは存在しますが、実際の血中濃度管理は麻酔医の経験に大きく依存しており、特に肝臓疾患の場合には予測が困難となります。過去、私共では防衛医科大学校病院麻酔科に協力し、化学イオン化質量分析法により、手術中の呼気をオンラインでリアルタイム分析することにより、プロポフォールの終末呼気濃度を精度よく検出可能であり、終末呼気濃度と血中濃度が非常によい相関関係にあることを見出しました。しかしながら質量分析法は高額となるため実用性はなく、コストが1桁下がるモニタリング方法を模索しておりました。
この1〜2年で部品の要素技術が急速に進展したことを契機として、本助成を受け、分光学的な手法によるコスト1/10のプロポフォールモニターを開発しました。海外でもオフラインで測定する装置は開発途上にありますが、オンラインでブレスバイブレス測定が可能な装置は世界初となります。開発したプロポフォールモニターは、1秒積算毎のデータ収集における感度が40ppt(1兆分の40)以下と高感度で、術中の投与管理のみならず、覚醒時期の判断も可能になることが期待されます。
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