脊椎骨・関節、椎間板、あるいは靭帯が変形・変性することで、脊髄あるいは神経を圧迫して、運動障害、しびれ、痛みを生じる脊椎変性疾患の患者は国内で600万人と言われる。椎骨と椎骨の間が不安定な状態になっている場合には、チタン製のスクリューを用い、ロッドあるいはプレートにより椎骨を固定する脊椎固定術が、年間8万件程度と広く施術されている。しかし脊椎の周囲には神経や血管があってスクリューを通す場所は狭く限られており、熟練の手技をもってしても、X線画像を見ながらフリーハンドで行う施術は困難で、数割程度では逸脱が起こることが知られ、時には脊髄や、動脈の損傷という重大事故にも繋がることが報告されている。技術開発者らは、3Dプリンターを用いて患者の脊椎の状態に合わせた治具(スクリューガイドテンプレート)を作成し、スクリュー用の下穴を開ける際に用いることで、誤刺入を劇的に防止することができると着想し、6医療機関の協力を得て実際に症例研究を行い、適切な形状を見出しつつ、実施例を積み上げてその有効性を検証してきた。
本開発では、この技術を実用化するために、強度や安全性の観点から適切なガイドプレートの材質を決定するとともに、医用CT画像から個々の患者にフィットするガイドプレートを設計するガイドラインを決定して、これをソフトウェアとして実装する。そして、医療機器として一般の医療機関で用いるための製造販売承認を得るために不可欠なデータを取得する。
手術の失敗により苦しむ患者のみならず、手術のリスクを考慮して手術を断念するケースにより苦しんでいる患者を救える、社会的な意義は大きい。経済的な効果としても、現在の手術費用を考えると仮に1割、年8000件の手術に導入されたとすると、このテンプレート自体で20億円規模、患者の社会復帰まで考慮して波及効果を考えれば、更に大きな効果までが見込まれる。
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