アニサキスは寄生虫の一種でありアジ・サバをはじめ多くの海産魚に寄生している。刺身などで生のままその身をヒトが摂取してしまうと胃壁や腸壁に刺入し、食中毒を引き起こす。令和5年度厚生労働省統計によるアニサキス食中毒報告件数は432件で第一位となっており水産業界の喫緊の課題となっている。
現状、生食用加工品においてアニサキス食中毒リスクを低減する手法は、冷凍による駆除や目視による手動除去に限られる。しかし、冷凍は身質の劣化に伴う商品価値の低下をもたらし、目視による除去は表面付近のものしか除去できないため100%除去は不可能である。そこで熊本大学と共同研究を行い、パルスパワーによるアニサキス殺虫技術を開発した。この技術で処理したアジは冷凍に比べ生の品質を保っていることから非常に高い評価を受けている。しかし、バッチ式処理はアジの切身(アジフィーレ)を処理槽に一定数投入し一定回数パルスを印加してから取り出すという仕様であるため製造効率が悪く、処理中は強い水流で撹拌する必要があるため身の柔らかい魚は処理できない等の縛りがあった。
本技術開発のパルス殺虫機は開口部の広いコンベアでアジフィーレを挟み込む形で水中を搬送しながら電極通過時にパルスを印加する仕様である。従来のバッチ式に比べ以下の3つの優位性を持つ。1)連続処理可能であるため大量生産向きの仕様である。限られた通過時間でパルス殺虫処理を施す必要があり、殺虫効率を高めるために、電圧・コンデンサ・電極形状など様々な条件を見直し殺虫効率がバッチ式の2倍ほどと大きく上昇した。2)オーバーフローを含む水の循環を行うため、処理ごとに水を入れ替えるバッチ式に比べランニングコストを抑えることが可能である。3)コンベアで挟み込む運搬方式であるため、水流で撹拌するバッチ式に比べ魚へのダメージが小さくサバのような身質の柔らかい魚であっても処理可能となり今後様々な魚への応用が期待される。
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