アルミ切粉乾燥技術の革新 と普及で、循環型社会の一助を
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油化の技術を転用し、切粉の乾燥処理を効率化 |
■アルミ切削に潜む問題点 | ||
一般的な自動車メーカーや、アルミ部品等を製造する工場では、部品加工の際に切削クズ「切粉」が出る。アルミを削るには、摩耗と発熱を避けるため切削油を常時かける必要がある。そういった工場では、日々大量に出るアルミ切粉を溶かしてまた再生しているが、切削油が付着したまま溶融炉に投入すると、発煙・発火・爆発といった事故につながる。そのため、事前に高温乾燥炉で切削油の乾燥を行うが、従来は炭化した油分や微粉が残留し、完全には事故を防止できなかった。また、乾燥処理中にアルミの酸化が進行し、再生歩留りが低下する問題もあった。環境エネルギー(株)が実用化した新たな「アルミ切粉乾燥技術」では、切粉に付いた油分を素早く完全に乾燥させ、アルミ再生を安全かつ高効率に行うことができる。 |
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■FCC触媒を乾燥に利用する発想の転換 | ||
当技術でユニークなアイデアがFCC触媒の活用だ。「FCC」は、石油精製において重質油留分を触媒の作用で分解し、低沸点の炭化水素(ガソリン等)に改質する方式で、「流動接触分解」とも言われる。環境エネルギー(株)はもともと廃プラスチックを油に戻す「油化」技術を事業の一つにしていたが、共同研究者のアドバイスを元に、そこで使われていたFCCの原理を切削油分の乾燥に転用した。
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稼働までの道のりに立ちはだかった品質の壁 |
■仮稼働で問題になった混入する粉 |
従来、切粉は熱風で乾燥させるが、複雑形状の細部の油は取り切れなかったり、アルミの小さな粉が粉塵爆発を起こしたりする。アルミ切粉を扱う企業にとって、これは大きなリスクだった。新規性と優位性を兼ね備えた当技術は注目が集まったが、初号機の完成までに幾多の苦労があった。当初、早い段階でパートナー企業から実機導入への開発協力が得られた。しかし、仮稼働まで進んだ時点で問題になったのが、アルミ再生品に混入していた“触媒の微粉”である。 |
■妥協を許さない安全と品質 |
当方式は粉末状のFCC触媒を使うため、乾燥した際に、どうしてもごく微量の粉がアルミの再生品に入り込んでしまう。ほとんどの部品ではそのままでも問題はないが、大手製造企業は厳格な品質管理体制を敷いており、この除去が求められた。そもそも多くの企業は、かつて切粉をリサイクルしていた。油分がついたアルミも安いアルミとして売却でき、うまく再生できれば採算が取れたからだ。しかし、コンプライアンスが求められる現在、事故や不良率といった内部リスクを負うことは得策ではなく、コストに敏感な企業ほどアウトソーシング化を進めている。そのため、安全や品質に関わる分野では妥協が許されない。野田社長は、「研究開発では順調でしたが、生産技術部門の方から異物混入にNGが出ました。装置の耐久性、安全性なども私たちの考えよりはるかに高いスペックを要求され、90%以上から100%に行くまでの道のりが大変でした」と、当時を振り返る。 |
さらなる進化を遂げた乾燥技術を基盤にして環境貢献へ |
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■高度な技術要求が生んだ新方式 | |||
その後、完全に微粉を取るための試行錯誤が約1年間繰り返され、結果的に切粉乾燥技術はより進化を遂げた。最新の方式では、核心技術や攪拌方法はそのままに、触媒に代わって過熱蒸気式が採用された。投入する水の蒸気は1時間におよそ50リッターで、アルミ切粉200kgの処理が可能だ。これは従来機と比較して3倍以上速く、これまでより低温処理も可能にした。これも「“脱脂をしながら異物混入を防ぐ”という難解な命題を、パートナー企業に与えてもらったおかげだ」と野田社長。
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■誰もやったことがない分野への足がかりをつくる | |||
今後はパートナー企業と共に、世界各地の製造工場へ、リプレイスのタイミングで導入を広げていくことが目標だ。製造業の企業や工場は常に改善努力を続けているため、口コミからの水平展開も狙う。また、現状でFCC触媒から新方式は離れたが、もともと再生油化に使っている技術である。廃プラスチックの資源循環は多くの企業が取り組んでおり、将来的に日本にも根付く可能性があり、環境エネルギー(株)が培ってきた強みが活かせる。「機械をつくるメーカーの面以外に、プラスチックを油にするような挑戦をもっと拡大したい。まずは技術力を高めて、エネルギー分野への足がかりをつくり、環境や人の生活に貢献していきたいですね」と、野田社長は将来の展望を語った。 (取材日 平成30年10月15日 広島県福山市・環境エネルギー(株))
環境エネルギー(株) プロフィール 2013年5月、東京都新木場で木材を扱っていた前身会社から分社化し設立。廃プラスチック油化技術を柱に、より良い循環型社会の実現を目指す。2016年6月には本社を広島県福山市に移転。市販軽油と同レベルの高品質バイオディーゼル燃料製造装置、廃プラスチック油化装置の製造・販売・運用や、自動車部品加工工場等で使用する環境機器の製造販売事業を行う。経営理念は「環境・エネルギー分野を通じて、人々の幸せに貢献する」こと。従業員10名。
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