新技術開発助成

人と地球環境にやさしい、画期的な加硫接着技術を開発

「新規加硫接着剤フィルムの開発」
第97回(平成28年度第1次)助成

中島ゴム工業株式会社 (福岡県) 代表取締役 中島 幹雄さん
中島幹雄社長
中島幹雄社長

長年の加硫接着のノウハウを新技術に活かす

■産業の基盤となる防振ゴム
 防振ゴムは、自動車・運輸・建築などさまざまな分野に欠かせない基盤製品だ。従来、製造には加硫接着という加工法を使うが、大量の揮発性有機化合物(VOC)が出る。VOCは人体に有害で、胆管がんなどの原因にもなるため社会問題化していた。その解決策として中島ゴム工業は、加硫接着剤フィルム『ACULAH』を開発し高い評価を得たが、反面、転写前に80℃の予熱と加圧が必要なことから新たな設備投資が必要という問題もあった。

加硫接着の用途(出典:ブリヂストンエラステック(株)HP)
加硫接着の用途(出典:ブリヂストンエラステック(株)HP)


■成形と接着を同時に実現する新技術
 今回、新たに開発した『ACULAH PAD』は、ゴムと反応する接着剤を基布に含浸させ、そこに金属と反応する接着剤を塗工・乾燥した全4層の接着剤フィルムだ。加硫接着したい金属部品にこのフィルムを付け、ゴム材料と挟んで金型に投入し加熱・加圧するだけで成形と加硫接着を同時に行う、画期的な新技術である。中島ゴム工業は創業以来、半世紀以上にわたり多くの自動車用ゴム部品を製造しており、大手メーカーからゴム剥がれの不具合解析も請け負ってきた。新技術の着想には、従来技術の時間的・品質的ロスの多さを改善したいという業界内の要望と、そこで同社が知り得た加硫接着技法のノウハウが十全に活かされている。

加硫接着の原理
加硫接着の原理

画期的な新技術は、前例のない挑戦から生まれた

■基布54種類の評価テストを実施
 開発にあたり、確立しなければならない技術は二つあった。一つが、基布タイプの接着剤の開発だ。基布用のさまざまな不織布の接着評価テストが行われたが、市販品では目標とする品質のものがなく、新たに不織布メーカーとの共同開発が試みられる。そして完成した高品質の試作品は、自動車業界を代表する接着評価基準をクリア。現行の液体接着剤や加硫接着シートよりも優れた接着性能を示し、実用化への弾みをつけた。ここに至るまでに同社が試験した不織布は、実に54種類にも及んだ。

■前例のない挑戦へ「製造機も開発」
 もう一つ着手したのは、不織布の上にプライマーと接着剤を塗工する技術の開発だ。まず、不織布の表面に化学的な処理を行う。その上で塗工方法が検討されたが、薄い布類への塗布は前例がなく、すべてが手探り状態だった。「不織布への塗工には、樹脂フィルムと同様にコーターを用いますが、塗工ヘッドへのエア圧、不織布の送り速度、そして乾燥温度など、条件を一から設定し直しました。自分たちで“製造機械自体を開発した”と言っていいと思います」と、中島社長は当時の挑戦を振り返る。

『ACULAH PAD』は金属への転写が必要なく、ゴム材料と金属の間に挟み込み、金型などに入れて加硫接着&成形を行う(4層目のABSフィルムを剥がして使用する)
『ACULAH PAD』は金属への転写が必要なく、ゴム材料と金属の間に挟み込み、金型などに入れて加硫接着&成形を行う(4層目のABSフィルムを剥がして使用する)

加硫接着の新潮流へ、世界に広がる『ACULAH PAD』

■転写が不要で応用範囲が広がる
 こうして完成した『ACULAH PAD』は、従来技術の問題点を解消するだけでなく、多くの恩恵をもたらす。最大のメリットは、金属への転写が不要なため製品用途を選ばないこと。港湾用防舷材や製鉄ロールなど、予熱が難しい大型部材にも対応できまた、複雑な金属形状にも合致した接着ができるので、オイルシールやエンジンマウントなどの量産にも可用性が広がった。さらに、接着後の基布がゴムの中で接着界面の補強材として働き、接着力・耐久性を向上させ、長寿命化が期待できる。そして、『ACULAH』同様にVOCの発生がないので、作業用マスクや接着剤塗布用スプレーをはじめ、空気浄化設備なども不要となり、ランニングコストを削減した。

『ACULAH PAD』の製品見本
『ACULAH PAD』の製品見本

■地球環境にも貢献する技術革新を目指す
 すでに『ACULAH PAD』は、近年、加硫接着剤が大量消費されVOC規制も厳しくなる中国や、先進的な環境基準を設ける欧州を中心に引き合いが増えている。そのような企業では、作業者の安全やエコへの対応は死活問題であり、大気汚染防止が強化されるいま、国際的にも同社への注目や反響が大きいのは、当技術の革新性を表している。「加硫接着は古くて安定した技術で、過去50年間これに替わる技術革新は起きていません。それは、新技術開発の余地があるということ。今後は、高付加価値の加硫接着剤フィルムに特化した事業を展開し、収益性を高めつつ、地球環境にも公共利益の面からも貢献ができればいいですね」と、中島社長は将来展望を語った。
( 取材日 令和2年12月8日 福岡久留米市・中島ゴム工業(株) )

中島ゴム工業(株)本社(福岡県久留米市)
中島ゴム工業(株)本社(福岡県久留米市)

中島ゴム工業(株) プロフィール

1968年、先代から続く自動車用ゴム部品の製造開発企業として創業。主に工業用ゴム製品の開発・成形加工をはじめ、特殊で加工難度が高い自動車用フッ素ゴムパッキングなどの製造を行う。建設用免震ゴムや自動車用防振ゴムに用いられる『ACULAH』、新製品『加硫接着剤フィルムACULAH PAD』等、多様なゴム関連製品を提供し、ゴム部品に特別な機能を付加する注文加工にも対応。従業員約30名。