新技術開発助成

加工条件の最適化で、小型・薄型電子部品へ均一なめっきを実現

「小型かつ薄型の電子デバイスに対して均一にめっきを行い、大量生産する技術」
第100回(平成29年度第2次)助成

株式会社エルグ (群馬県) 代表取締役 桐原 聡二郎さん
工学博士の桐原社長(中央)と、1級めっき技能士の牧野さん (左)、 1級めっき技能士で顧問の山田さん(右)
工学博士の桐原社長(中央)と、1級めっき技能士の牧野さん (左)、
1級めっき技能士で顧問の山田さん(右)

微細部品の加工経験が、大容量均一めっき技術へ進化

■電子デバイス普及により望まれる新技術
 電子デバイスは軽薄短小化も進み、いまや人々の生活には欠かせない道具である。今後はより一層の普及が予想されるが、従来のめっき技術では極小部品へのより精度の高い対応が難しく、新技術開発の重要性が高まっていた。エルグは長年にわたり微細部品のめっき加工を得意分野とし、品質面ですでに高い信頼を得ていた。こうした歴史もあり、めっき関連の困り事が発生すると、依頼が舞い込むことも珍しくない。2016年から始まった小型デバイスに対するめっき技術の開発も、発端はある大手メーカーからの依頼である。

■小型・薄型電子部品の均一めっきを実現
 そのオーダー内容は、「板形状」部品に膜厚を最小限に薄くした、かつ均一なめっき処理を施すことだ。通常、四角形状の電気めっきでは、その角に電気が集中するため、端が厚く、中央が薄くなりやすい。この特性から表面加工の業界では、すべての部分の膜厚の均等化は極めて困難と言われてきた。加えて、本案件が製造工程のごく一部の「特殊工程」にあたることも開発の壁になった。そのため、部品単体では十分に製品完成時の性能が検証できなかったが、それでも開発陣は奮起。技術内容は、治具の改良、めっき液の調整などにも及び、実験を含め80回以上の試作試験を繰り返した。そして、さまざまな要素を調整しながら、ついに一度に60万個の部品への均一めっきを達成し、小型・薄型電子部品において高品質で安価な均一めっきの供給を可能とした。

上は比較用のシャープペンシルの芯(0.5mm)、下がめっき後の極細コイルスプリング(線径13μm)
上は比較用のシャープペンシルの芯(0.5mm)、下がめっき後の極細コイルスプリング(線径13μm)
  コイルスプリングの拡大画像
コイルスプリングの拡大画像

高精度かつ均一なめっき処理を支える2つの技術

■めっき処理の均一性を支えるバレル
 この高品質なめっき処理を可能としたのは、二つの新技術の開発が大きい。膜厚の均一化では「バレル」という、めっき対象の極小部品を投入する容器の設計が重要だった。バレルは、そのままめっき液につけ、回転させて、内部の極小部品にめっきを施す。終了過程でめっき液は排出するが、当然、部品の流出は許されない。また、極小部品がバレルの隙間にはりつき、めっきのバラつきが生じるのも避けなければならない。そこで考案したのが、ラグビーボール型のバレルだ。それまでの円筒型バレルの両端を絞った形状にして、極小部品の横移動を促進させ、攪拌性を向上。さらに、バレル内面はメッシュ構造にして、部品同士のはりつきも防止した。

バレル形状の違いによる、攪拌性やはりつき防止効果の向上
バレル形状の違いによる、攪拌性やはりつき防止効果の向上

■めっき条件の解明でつきまわりを確保
 新たなバレルによって、高精度なめっき処理を実現するもう一つの主要技術が、めっき液や電流・電圧といった「めっき条件」だ。めっき液は、毎回の使用で部品やバレルに析出または付着し、徐々に液の濃度や液量が減っていく。また、極小部品の場合は、薄く小さいことで液面に浮き、めっき皮膜がバラつく問題を常に抱えており、それは電流や電圧との調整関係に起因する。開発陣は、液組成や電流など、すべてのバランスが日々刻々と変化するめっき液に挑み続け、検証を繰り返した。そして、最適な条件設定を見出すことで、めっき皮膜のつきまわり品質を一定に保つことに成功した。

めっき皮膜のつきまわり
めっき皮膜のつきまわり

管理技術の見直しで、さらに大量・安定生産へ

■試行錯誤で生まれた管理技術の「レシピ」
 こうした新技術は、試行錯誤の末に確立されてきたが、その過程では貴重な副産物も生まれた。それが、めっき加工の管理技術だ。エルグでは従来、めっき加工のさまざまなバランス調整は、熟練者の長年の経験に頼る部分が大きかった。しかし、安定的に新たなめっき加工技術を継続していくには、従来の管理手法よりも、繊細で厳格な制御が必要なことが判明した。「めっき加工は初めにめっき液を作りますが、ある時いつも通りではまったくめっき製品が作れなくなりました。そこで、最適な組成や段階、工程を一からすべて見直しました。例えるなら、これまでは『熟成した鰻のタレ』でやっていたのを、“熟成せずに済む”ように液の明細なレシピを開発したのです。業界のセオリーから脱却して、管理工程全体を刷新できたことは大変な財産です」と、開発陣は成果に自信を見せる。

めっき加工の全工程
めっき加工の全工程

■IoTの拡大に、めっき技術のコストで貢献
 エルグは、接点部品の加工を数多く請け負っているが、昨今の部品の極小化に追従するようにめっき箇所も極小・薄型化し、その要求が高度化した。そのため、ナノメートル・オーダーの均一なめっき皮膜を、安定して大量に処理できる新たなめっき技術は、反響を呼んでいる。桐原社長は、「IoTの進歩は既定路線であり、部品は今よりも小さくなるでしょう。この先、新技術ではバレルごとに200万個程度まで投入可能となり、コスト面でさらに貢献できると考えています。今後は、他社に真似できないめっき技術で、医療業界や地域に貢献していきます」と、将来の目標を語った。
( 取材日 令和3年11月11日 群馬県富岡市・(株)エルグ )

株式会社エルグ・事務棟 (群馬県富岡市)
株式会社エルグ・事務棟 (群馬県富岡市)

(株)エルグプロフィール

1947年、群馬県富岡市にて、ニッケル・クロムめっき加工を生業とする桐原鍍金工業所が創業。1997年、株式会社エルグに社名変更。極小径のコイルスプリングや、髪の毛よりも細いピン、組付き品など、微細品への表面処理を得意とし、中でもめっき処理は世界最高レベルの品質を誇る。主要加工品は、電気接点部品、通信機器、自動車部品等。量産品のほか、研究開発案件への対応も可能。従業員数68名。