新技術開発助成

新たな高性能触媒の活用で、次世代エネルギーに革新を!

「金属空気電池用非白金系高性能触媒電極材料の実用化に関する技術開発」
第104回 (令和元年度第2次) 助成

AZUL Energy 株式会社 (宮城県) 代表取締役 伊藤 晃寿さん
伊藤社長
伊藤社長

異なる知見が融合し、新規触媒が誕生

■求められる新規触媒電極
 いま、リチウムイオン電池に代わる次世代の電池として、高いエネルギー密度を持つ燃料電池や金属空気電池が期待されている。これらの電池の正極では、電極上で酸素の還元反応を起こしてエネルギーを取り出すが、より反応を促進するため、白金を担持(付着固定)した炭素触媒が使用される。しかし、白金は高価で資源制約のリスクがあるため、これに代わる安価で高活性な触媒電極材料の開発が求められていた。東北大学発のベンチャーとして設立されたAZUL Energy株式会社は、こうした時代の要請に応えるべく、高度な材料化学を基に、「AZUL触媒」を創出した。東北大学では以前から青色顔料のナノ粒子を作る研究を行なっていて、それが触媒研究に発展した経緯がある。新たな触媒電極の開発には、有機合成と電気化学の二つの技術が欠かせないが、この両方の土壌を持った研究者が交流できる環境にいたことが幸いした。

図

■新たな光電子分光装置の要求性能
 AZUL(アジュール)とはスペイン語で「青」を意味するが、この色が「AZUL触媒」の技術の根幹である。もともとは顔料の新しい微粒子化技術により、特殊な有機溶媒中に分子が溶けることで独特の澄んだ青色が発現する。溶液化にはさまざまな面でメリットがあるが、その最たるものは炭素の上に吸着できることだ。通常、白金炭素触媒は、白金のナノ粒子を炭素に担持するが、「AZUL触媒」の場合は、分子レベルで溶け込んだ触媒を炭素表面に単分子状に吸着させる。そのため、多くの活性点が生まれ、高触媒活性が得られる。さらに、触媒の生成過程では、高温の熱処理が必須だったが、常温のウェットプロセスのみで完結するため、白金代替触媒として燃料電池や金属空気電池などの低コスト化に大きく貢献できる。


金属空気電池実現へ、量産化体制を確立

■スケールアップ可能なプロセスへと展開
 「AZUL触媒」は高い触媒活性と低コストを両立する素材だが、金属空気電池用電極に利用するには、越えなければならない壁があった。中でも触媒電極材料は、当初、数グラム単位でしか生産できず、製品化へ向けてはキログラム単位での生産技術の整備が不可欠だった。そのため、まず試みたのは触媒分子の量産化とコストダウンだ。外部委託企業と共に、実用化に必要な収量を得るための合成方法の新規開発を行い、最終的には十分の一以下のコストダウンを達成した。そのおかげで、生産手法の確立にも弾みがつき、循環型の超音波分散装置やビーズ分散装置を用いた生産技術を開発して、処理量向上と時間短縮、均一被覆条件を達成。触媒分子とカーボンを複合化した触媒電極材料を、月産2kg以上生産できる体制を整えた。


「AZUL触媒」 の外観
「AZUL触媒」 の外観
  「AZUL触媒」のイメージ
「AZUL触媒」のイメージ

■シート型空気電池の開発に拍車
 そして最後に着手したのが、触媒シート電極の生産技術の確立だ。触媒電極材料をフィルム型バッテリーへ展開するべく、カーボンシート上に均一塗布するスプレー技術を用いてシート状の触媒電極を製造した。「AZUL 触媒」を添加した触媒シートでは、実際に補聴器用ボタン電池に組み込む電池試作を行い、従来のマンガン系触媒と比較して、40%以上の高容量化を確認。また、同様の試作をフィルム型電池でも行なった結果、長期保管安定性を含めて従来触媒よりも優れた性能を発揮した。電極シートの量産化の目処が立ったことで、製造元顧客へのサンプル提供が進み、現在ではAZULを使ったシート型の空気電池の開発と、国内外の新規顧客の開拓が精力的に行われている。

実用化に向けた量産体制の目標
実用化に向けた量産体制の目標

触媒技術の応用で、地球環境に貢献したい

■ウェアラブルデバイスをはじめ広範な展開
 「AZUL触媒」を活用した新規電極材料は、空気電池が持つメリットを最大化し、非常時電源の軽量・高容量化、IoTデバイス等の電池の小型化、フィルム型バッテリー等へさらに広範な展開を可能にする。特にウェアラブルデバイス用の電源としては、近年、センサーの技術革新が進む一方、バッテリー部は依然として乾電池が主流だ。ここにフィルム型の金属空気電池が登場すれば、医療やヘルスケア用ウェアラブルデバイスの高性能化が期待できる。

「AZUL触媒」の製品群 (手前の二つは使用中)
「AZUL触媒」の製品群 (手前の二つは使用中)
  新たな分散装置
新たな分散装置

右から、藪 浩 取締役 CSO(理学博士) 東北大学 材料科学高等研究所(WPI-AIMR) 教授(主任研究者)、伊藤 晃寿 代表取締役社長、阿部 博弥 取締役(学術博士) 東北大学 学際科学フロンティア研究所 准教授
右から、藪 浩 取締役 CSO(理学博士) 東北大学 材料科学高等研究所(WPI-AIMR) 教授(主任研究者)、伊藤 晃寿 代表取締役社長、阿部 博弥 取締役(学術博士) 東北大学 学際科学フロンティア研究所 准教授

■脱炭素社会をエネルギー面からサポート
 加えて、金属空気電池は、リチウムイオン電池に比べ、発火懸念が無く安全性も高い。従来は環境汚染の点で問題だった乾電池とは異なり、安全に廃棄が可能なことから、環境配慮型の製品として存在感を増すだろう。「現状で金属空気電池の市場は補聴器がメインですが、高容量や安全性といった付加価値をアピールすれば世の中の印象も変わるはずです。今後は触媒技術を多様な分野に展開して事業を発展させながら、脱炭素社会をエネルギーの面から「支えたいです」と、伊藤社長は将来の構想を語った。
( 取材日 令和5年10月12日 宮城県仙台市・AZUL Energy (株) )

研究室のある東北大学産学連携先端材料研究開発センター (仙台市)
研究室のある東北大学産学連携先端材料研究開発センター (仙台市)

AZUL Energy (株) プロフィール

2019年、高性能触媒「AZUL触媒」の実用化に向けてAZUL Energy株式会社を設立。材料事業として、燃料電池や金属空気電池などの酸素還元反応用触媒電極や、グリーン水素製造用の水電解触媒の高性能化とコストダウンに取り組む。また、レアメタルに依存しない次世代ネルギーデバイスの開発や性能向上を通して、IoT社会、低炭素社会、循環型社会実現への貢献を目指す。従業員数約9名。