植物研究助成

植物研究助成 18-04

ウバメガシのモノテルペン放出に関する種内変異の解明

代表研究者 静岡県立大学 環境科学研究所
准教授 谷 晃

背景

 植物の中には二次代謝物としてモノテルペン類を恒常的に生産するが、貯蔵器官を持たないモノテルペン非蓄積・放出植物が数種存在する。この場合、モノテルペンは生産後直ちに放出される。このタイプの植物種はヨーロッパの地中海沿岸に自生するコナラ属のQuercus ilexなど数種しか報告例がなかったが、申請者らは、東アジアに自生するコナラ属のウバメガシが貯蔵器官を持たずモノテルペンを大量に放出することを突き止めた。

目的

 本研究の目的は、東アジアで初めて見つかったモノテルペン非蓄積・放出植物であるウバメガシの特異なモノテルペン放出特性を解明することである。具体的には以下のようになる。
(1)自生地の伊豆半島,屋久島(変種:ケウバメガシ)および植物研究園植栽地で測定し、モノテルペン放出特性の地理的変異を調べる。
(2)増殖した放出個体と無放出個体の、塩分、強風、乾燥など環境ストレスに対する耐性を調べる。

方法

 (1)に関しては、植物研究園の植栽地、屋久島と伊豆半島の自生地(戸田)で成木を用いて測定し、モノテルペン放出の有無,放出量や組成の差異を調べる。また、凍結乾燥した葉を実験室へ持ち帰り、モノテルペン合成酵素活性を測定する。(2)今年の測定の中で、50個体の実生のうち、モノテルペン生産能力がない3個体を見つけた。これらを、培地を加温した挿し木装置で増殖する。増殖した放出個体と無放出個体に、塩分,強風など環境ストレスを負荷し、ストレス耐性の差異を調べる。

期待される成果

 イソプレン放出植物がイソプレンを生産する理由として、高温とオゾンに対する防御が示唆されたが、他の環境ストレスとの関連は明らかでない。ウバメガシがモノテルペンを体内に貯蔵せず、直ちに放出するという生理作用が、ウバメガシが自生する海岸沿いに特異なストレスである塩分、強風,乾燥などのに対する防御機構と関係あるかどうか検討することは、この植物の大陸での進化と,日本列島内での進化の違いを類推する手掛かりになるだけでなく、中国、日本両国にとって重要な樹木であるウバメガシを保護し、造林するための基礎データを提供できる。