植物研究助成

植物研究助成 18-05

植物研究園内に生息する有用微生物を利用した環境保全型農林業技術に関する研究

代表研究者 東京工科大学 応用生物学部
教授 高柳 勉

背景

 植物を美しく健全に育てることは容易ではない。特に問題となるのは、カビや細菌による病気、害虫による虫害であり、これらは時に一山を枯れさせる脅威を持つ。人間は化学合成農薬を開発することで、これら病害を抑え、見た目は美しい世界を築き上げたが、実のところ、化学合成農薬による環境破壊という地球規模の問題を引き起こしてしまった。現在も、残留農薬問題により「食の安全」が脅かされているが、これらもまた化学合成農薬によるものである。ただし、人間が改良した現在の植物は病害に弱く、その育成には農薬および肥料を欠くことはできない。

目的

 化学合成農薬に替わる環境保全型次世代農薬として、生物農薬が注目を浴びている。生物農薬は自然界に存在する微生物や昆虫を利用して、カビや細菌、害虫を抑制する技術であり、環境への負荷は極めて少ない。本研究では、平成20年度に植物研究園の土壌、樹皮、植物残渣、川底の泥、などから分離した細菌を利用し、環境に優しい『微生物』農薬を開発することを目的とする。

方法

 以下の方法により、順次研究を遂行する。
(1)候補微生物の同定:平成20年度に植物研究園から分離した細菌から、多くの植物に感染する病原菌Glomerella cingulata(カビ)の生育を抑制する細菌を選抜する(現在、34株を選抜済)。次に、これら細菌の属種を同定する。
(2)微生物農薬としての適用範囲の検討: G. cingulata以外の病原菌に対しても生育抑制を示すのかを検討し、微生物農薬としての適用範囲を確認する。
(3)生育抑制メカニズムの解明:病原菌の生育を抑制するメカニズムを解明する。
(4)実用化に向けた圃場レベルでの散布試験:G. cingulataはブドウに晩腐病という病気を引き起こす。ブドウ栽培圃場(山梨大学保有)に選抜された候補微生物を散布し、G. cingulataに対する防除効果を検討する。

期待される成果

 本申請課題を植物研究園で行なっている理由の一つは、植物研究園は素晴らしい植物生態系を築いており、有用微生物の探索に格好の場であるからである。平成20年度に行なった研究により、植物病原菌の生育を抑制する細菌が分離された。本年度は、これら微生物農薬の候補微生物を圃場に散布し、自然発生する病気を防除できるか否か検討することを最終目標とする。候補微生物に新規性があり、圃場レベルで防除効果を示すのであれば、直ぐに特許を取得し、環境保全型農林業技術として、実用化を推し進める予定である。