植物研究助成

植物研究助成 18-08

可搬型スキャニングライダーによる植物群落3次元構造計測法の開発

代表研究者 東京大学 大学院農学生命科学研究科
教授 大政 謙次

背景

 植物は葉の気孔を介して、大気とのあいだで、光合成や蒸散のためのガス交換を行っている(例えば、矢吹 植物の動的環境 朝倉書店 1985)。このため、植物群落における光合成や蒸散の機能を調べるために、群落構造、特に葉面積密度(LAD)やバイオマスの垂直分布を測定することが行われてきた。そして、これらの垂直分布の測定法として、古くから層別刈り取りによる方法が有用とされてきたが、この方法は多大な労力を必要とする。また、簡便な方法として、光学センサで群落内の光減衰を測ることにより、LADやその積分値である葉面積指数(LAI)を推定する装置が市販されているが、精度的な問題がある。そこで、より精度が高く、労力を必要としない方法が求められている。

目的

 本研究では、可搬型スキャニングライダーを用いて植物群落の3次元情報を取得し、その3次元構造を表す指標である葉面積密度(LAD)の垂直分布やその積分値である葉面積指数(LAI)を効率的かつ正確に計測する手法を開発することを目的とする。

方法

 本年度は、まず、層別刈り取りが可能なつくばのサイトで、単一種の樹木群落を対象とし、可搬型スキャニングライダーによる葉面積密度(LAD)の垂直分布の計測法の検討を行う。その際、ビーム入射角やライダーの配置を考慮してデータを取得する。そして、得られたデータから各器官の分離や葉傾斜角の補正を行い、群落LAD垂直分布を算出する手法について検討する。また、植物研究園内及びその周辺に生育する針広混交群落を対象として、先の実験で得た計測条件の知見をもとに、可搬型スキャニングライダーによる距離計測を実施し、データの収集を行う。

期待される成果

 最初の実験では、可搬型スキャニングライダーによる群落LAD計測の手法が確立する。また、層別刈り取りデータなどの収集ができ、次年度以降、精度に関わる要因と高精度LAD計測を可能とする計測条件の指針の検討が可能となる。植物研究園での実験では、今年度は、可搬型スキャニングライダーによる距離計測データの収集にとどまるが、実際のフィールドに多くみられる針広混交群落の中の樹木を対象とするため、実用性の高いLAD計測技術が確立されることが期待される。そして、森林生態調査の最も基礎的な情報が迅速かつ、精度良く取得できるようになる。また、温暖化を始めとした様々な環境変化に対する植物群落の3次元構造的なレスポンスの変化を正確にモニターし、環境変化の影響を迅速に捉える計測技術が確立されるものと期待される。