植物研究助成

植物研究助成 18-10

伊豆・三浦半島固有キク科植物のセスキテルペン環化多様性に関する研究

代表研究者 横浜市立大学 木原生物学研究所
教授 村中 俊哉

背景

 キク科植物には、「セスキテルペン」と呼ばれる多様性に富む生理活性物質が含まれており、古くから民間薬、食用に利用されてきた。植物体内では、さまざまな環化酵素による環化反応によって多様なセスキテルペンが生成される。キク科植物は、種によって異なる環化反応があるため、その遺伝子資源を保全することが重要である。伊豆・三浦半島には、イソギク、イズカニコウモリ、ユキヨモギなどのキク科固有植物が確認されている。イソギクの花序は解熱、解毒、鎮痛などに処方され利用価値が高い。イズカニコウモリやユキヨモギ地上部は食用に利用されてきたが、近年、個体数が減少し絶滅危惧種に指定されている。これら固有植物の化学的・分子生物学的知見はほとんどなく、今まさに貴重な化合物・遺伝子資源が失われようとしている。

目的

 研究申請者は、キク科ヨモギ属植物32種60系統について網羅的な化学的・分子生物学的解析を行い、多数のセスキテルペンを単離同定するとともに、セスキテルペン環化の特徴付けを行ってきた。そこで本研究では、植物研究園を拠点とした伊豆・三浦半島固有キク科植物の生育調査を実施し固有植物の分布状況を明らかにするとともに、固有植物のセスキテルペンプロファイリングおよびセスキテルペン環化に関わる酵素遺伝子解析を行うことにより「伊豆・三浦半島固有キク科植物のセスキテルペン環化多様性」を明らかにし、貴重な遺伝資源の保全ならびに有効活用を目指す。

方法

 これまでの調査報告書・論文などを元に、植物研究園を拠点とした生育調査を実施し、固有植物の現時点での分布状況を明らかにする。次に固有植物の地上部および花序について、セスキテルペンのプロファイリングを行う。ヨモギ属植物のデータと照らし合わせて体系的な比較解析を行う。化合物分析に供したものと同一ロットの植物サンプルについて、研究申請者が単離済みの環化酵素遺伝子の配列情報を元に、環化酵素遺伝子の比較解析を行う。

期待される成果

 固有植物のセスキテルペン環化多様性を明らかにすることによって、新規セスキテルペンおよび新規セスキテルペン環化酵素遺伝子の単離が期待される。本研究を通して、「有用化合物資源を保全する」といった視点から絶滅危惧種、地域固有植物の重要性について認識を広めることができ、新たな保護活動を促進・展開する効果が期待される。さらに新規セスキテルペンの機能性を調査することにより、機能性食品、医薬品原料などの新たな用途開発が期待される。