植物研究助成

植物研究助成 18-12

伊豆・丹沢地域産単子葉植物の形態的独自性とその成立の歴史

代表研究者 大阪市立大学 大学院理学研究科
准教授 田村 実

背景

 伊豆・丹沢は、日本の単子葉植物の多様性に大きく貢献している地域の一つであり、この地域には独特の形態をした単子葉植物が多い。例えば、ハコネハナゼキショウ類似の植物は、この属で唯一、複総状花序を発達させる。原寛先生が報告されたホソバホウチャクソウや、私が確認しているホソバナルコユリは、なぜかいずれもこの地域で狭葉化する。イズドコロは、この地域で種分化したと考えられる。しかし、いつ頃、どのように、これらの植物は進化したのか、その歴史は謎のままである。それ故、伊豆・丹沢地域が、単子葉植物の多様化の場として果たした役割については、未だにわかっていない。

目的

 本研究では、まず、伊豆・丹沢地域の単子葉植物が発達させた形態レベルと染色体レベルの独自性がどのようなものなのかを解明する。そして、伊豆・丹沢地域の単子葉植物が、いつ頃それらの独自性を発達させて、どのような植物から分化したのか、その歴史を明らかにする。

方法

 本研究では、まず、形態形質を詳細に観察し、精密に測定する。例えば、伊豆・丹沢での狭葉化など、地域レベルでの変異を検出しようとする場合、精密な測定が必要不可欠である。次に、染色体を観察し、核型分析を行う。例えば、日本のホウチャクソウ類の場合、染色体数は全て同じなので、各染色体の腕比に基づいて分類群の特徴を把握し、雑種の可能性などを推定することになるが、この腕比の測定は、生物顕微鏡下あるいは画像上で精密に行われなければならない。これらの材料植物は、伊豆・丹沢の各地から植物研究園に移植し、栽培されたものを用いる。そのメリットは、各地の植物の形態的変化を、時間差なしに比較できるところにある。特に、開花時期や開花習性の比較には効果的である。染色体観察にも、これらの栽培植物を用いる予定である。次に、これらの栽培植物からDNAを抽出し、分子系統解析を行うと同時に、遺伝的距離を計測し、分岐年代の推定を試みる。そして、これらの分子レベルのデータを尺度として、形態レベルと染色体レベルの独自性が成立した歴史を推定する。

期待される成果

 本研究で最も注目されることは、いろいろな単子葉植物の伊豆・丹沢地域での独自性がほぼ同時期に獲得されたのか、バラバラに獲得されたのかという点である。そして、前者の場合、その時期は、伊豆半島が本州に衝突した時期に同調しているのかどうかという点である。本研究によって、単子葉植物が伊豆・丹沢地域で特に多様である原因の一つが、解明されることが期待される。