植物研究助成

植物研究助成 18-14

植物葉の蛍光スペクトル及び蛍光葉内分布計測によるストレス評価

代表研究者 木更津工業高等専門学校 基礎学系
准教授 福地 健一

背景

 ガス状大気汚染物質による森林の衰退やオゾン層破壊に起因する有害紫外線の増加に伴う農作物の減収等、広範囲にわたる環境変容が植物の生育に及ぼす影響を的確に評価する技術の確立が急務となっている。我々は、紫外レーザーを用いたレーザー誘起蛍光(Laser-Induced Fluorescence:LIF)法による植物葉蛍光の測定から、植物の生育状態を非破壊・非接触的な物理手法によって評価できることを見出した。紫外光で励起することで、クロロフィルだけでなくフェルラ酸、フラボノイド、NADPH等の葉内化合物からの蛍光も同時に計測できるので、本手法によって総合的な植物診断を行うことが可能となる。

目的

 本研究では、植物葉のLIFスペクトル計測により植物活性の定量評価を行うと同時に活性低下に関与したストレス種を特定することを第一の目的とする。さらに、LIFスペクトル計測と並行して蛍光葉内分布及び入射光の葉内における吸収スペクトルの測定を行い、各ストレスとLIFスペクトル変化の関係を葉の細胞レベルで観察することで、生育診断の精度を向上させることを第二の目的とする。

方法

 He-Cdレーザー(325nm)及びダイオードレーザー(375nm)の2種類の異なる励起波長を用いて、作物葉(水稲,ラッカセイ等)及び樹木葉(クロマツ,ブナ等)にUV-B・オゾン・人工酸性雨等のストレスを負荷した際のLIFスペクトルを計測し、個々のストレスに対応した特徴的な変化を見いだす。また、LIFスペクトル計測と並行して、我々が開発したイメージング分光画像解析(Imaging Spectrogram Analysis: ISA)装置を用いて葉内における蛍光分布の測定を行い、各ストレスが葉のどの部位に、どのような影響を及ぼすかを明らかにする。さらに,ISA装置を改良して、入射光の葉内における吸収スペクトルの測定を行い,ストレス負荷に対してどのような変化が生ずるか調査する。

期待される成果

 1)熟練者でも困難なストレス種の特定を客観的に行うことが可能となる、2)目視では検出できない初期のストレス影響を検知することが可能となる、3)リモートセンシング(蛍光ライダー等)に応用し広範囲にわたる植物生育モニタリングを行うことが可能となる等の成果が期待でき、農業工学及び環境モニタリングの技術向上をもたらし生態系の維持に大きく貢献できると考えられる。