植物研究助成

植物研究助成 18-17

蛍光試薬をプローブとして用いる植物内水移動可視化法の開発

代表研究者 岩手大学 農学部 
准教授 松嶋 卯月

背景

 世界的な食糧不足の懸念が高まるにつれ、農業用水不足の問題が改めてクローズアップされている。農業における水利用の効率化は食糧供給問題を解決する上で重要である。しかし植物が水を利用するうえで最初の関門となる土壌−植物根間の水移動はいまだ解明されず、モデルによる推測の域を出ていない。

目的

 本研究では、サンプル植物としてシロイヌナズナを用いその根から植物茎にいた水の流れを蛍光試薬をトレーサとして可視化し、植物根における水利用効率の高い部位を明らかにする。さらに,将来的には遺伝子解析でそのメカニズムを解明し、効率的な灌漑法確立に寄与する。遺伝子組み換えで、あるいは、化学的手法で植物根の一部機能を阻害し、阻害されていない試料と吸水能力の差を比較するいわゆるノックアウト方式を行う場合、試料の栽培および解析にかかる時間を考慮すると問題解決まで長時間かかることが予想される。一方で植物根における水移動の可視化を行うことで、その植物根における空間的な吸水能力の差をわずかなサンプルでかつ短時間で解明できる。

方法

 まず(1)植物組織に取り込まれる蛍光試薬を用い、根からの吸収を可視化する。しかし根には選択的に物質を取り込むカスパリー線が存在するため、取り込まれた蛍光物質が水分吸収の指標となるか否かを確認する必要がある。そこで、(2)植物内水移動を高精度で可視化可能な中性子ラジオグラフィと重水トレーサ法とを組み合わせ、取り込まれた蛍光試薬による発光強度と水移動量の検量線から水移動量をもとめる。中性子ラジオグラフィおよび重水トレーサによる植物内水移動の可視化は研究用原子炉など特殊な場所でしか行えないが、蛍光試薬による水移動の可視化は実験室,フィールドでの実施も可能である。 
 

期待される成果

 本研究は植物における水利用でもっとも抵抗が大きい根の給水メカニズムの解明をめざす。それにより、植物根におけるより水吸収能力が高い部分への重点的な潅水が可能となり、農作物栽培における水利用効率が向上すると予想される。また,将来的には水利用効率が高い部位の遺伝子解析を行い遺伝子組み換え植物を作り出すことにより、特殊な灌漑設備を設けるのが難しい発展途上国においても、少ない水で効率的に作物を栽培することが可能になる。すなわち本研究は水不足の改善に貢献することが予想される。また、水不足は社会の注目の分野であり、本研究で得られる可視化データは人々に理解されやすく社会的インパクトは高い。