植物研究助成

植物研究助成 18-19

リアルタイム植物ストレスセンサーの開発

代表研究者 長崎大学 環境科学部 
准教授 下町 多佳志

背景

 地球規模で生じている気候変動レジームの元で、21世紀の緊急の課題となっている森林や草原の保全、農業における食料すなわち植物の生産性向上など様々な局面において、植物の状態を簡単・的確に把握可能な植物診断技術の開発が強く求められている。特に、人間の目で認識されるよりも前の段階で植物のストレス状態を非破壊でリアルタイムに探知可能なセンサーが開発されれば、極めて有用なツールとなるであろう。

目的

 これまでの研究によって、農作物(植物)の水分量測定の一手法に過ぎなかった電磁波による測定概念は「水分量の測定と同時に植物体内の浸透圧調整物質量の変化をマクロ的に捉えるストレス検出手法」へと拡大発展された。
 これまでの基礎研究を通じて得られた知見を「簡単操作で植物の状態を定量的に測定可能なリアルタイム植物ストレスセンサー」として実現し、一般の農家や植物生産システムで利用可能な測定装置として社会に還元したい。

方法

 これまでの研究でネットワークアナライザを利用したマイクロウェーブ測定システムを提案した(特願2004-257760, 特許公開2006-679549)。しかし、その測定システムでは,実験室で正確な測定ができても、屋外での測定には不向きで、装置の小型化、低コスト化などの工夫が必要であった。そこで、これまでの知見を応用し、簡便で安価に構成可能な植物のストレス適応応答測定装置を考案(特願2007-255783)すると同時に試作装置の開発を行ってきた。
 試作器は、植物の乾燥ストレスや塩ストレス状態を好感度に検出可能であったものの、実用化に向けて以下のような項目において一層の改良、データの収集が不可欠であることが分かってきた。(1)植物の種類によって異なる葉部の複雑な形状、構造や強度に対応するため、プローブ部の形状と構造の改良(2)測定周波数の最適化(3)測定回路の改良。
 

期待される成果

 植物の環境適応応答を、非破壊的かつ定量的にリアルタイム検出しようとした研究は、国内外で全く行われてこなかった。これまでの研究から得られた知見を利用することによって、測定原理が簡単で、製造コストも安価、操作も熟練が不要な植物ストレスセンサーが完成すれば、特に、高付加価値農産物を生産する農業の分野で極めて有効な測定装置となるであろう。さらに、本センサーを用いて植物の状態を測定することは、植物を介した環境評価の側面も有しており、環境保全分野へ応用可能なセンサーとしての普及も大いに期待される。