植物研究助成

植物研究助成 22-23

環境中のストロンチウムを驚異的に濃縮する緑藻の元素濃縮機構の解析

代表研究者 東邦大学 理学部
教授 佐藤 浩之

背景

 2011年3月11日の大震災により福島第一原子力発電所が被災し、大量の核分裂生成物が環境中に放出された。申請者は同年3月24日に千葉県銚子市で緑藻オオハネモを採集し、Ge半導体スペクトロメータを用いて放射性核種を解析したところ、極めて多種類の核分裂生成物を大量に含んでいた。ICP-MS等による元素分析の結果、特にストロンチウム含量が驚異的に高く、その他にも海水中のレアメタル、レアアースを高度に生物濃縮していた。

目的

 本研究では、緑藻オオハネモが生体濃縮する海洋元素の中で、特にストロンチウムの高度生物濃縮に関わるイオントランスポータやファイトケラチン分子を同定してそれらに関与する遺伝子のクローニングを行い、将来的には高等植物へ遺伝子導入して、原子力発電所から放出されたストロンチウムphytoremediatorの作出へ応用するための基礎データを獲得することを目的とした。

方法

 オオハネモの細胞膜タンパク質を可溶化し、電気泳動で展開してスポット化後、プロテオーム解析を行ってトランスポーター分子等の候補の検出を試みる。候補が同定された場合は、大量にオオハネモ細胞膜を調製して電気泳動し、N末端アミノ酸配列を決定して、そのcDNAおよびゲノム遺伝子をクローニングする。また、オオハネモから全mRNAを単離してcDNAライブラリーを作成し、網羅的なトランスクリプトーム解析を行って、他生物に存在するこれらのトランスポーター分子との類似性から、オオハネモの金属濃縮に関与すると考えられる遺伝子の検出も併せて試みる。

期待される成果

 環境中へされた放射性セシウムやストロンチウム等の除染を目的とした研究は、我が国が全力で取り組まねばならない喫緊の課題の一つである。緑藻オオハネモは環境中のさまざまな元素、特にストロンチウムを極めて高濃度に生物濃縮することから、オオハネモの持つ金属元素トランスポータ分子およびそれら金属元素の細胞内係留分子を同定して遺伝子クローニングを行う事で、ストロンチウム等を高効率で除染できるphytoremediatorの作出へと繋げることが可能となる。さらに申請者はオオハネモがストロンチウム以外にもレニウム等の海水中のレアメタルを高効率でbioconcentrateする事を見出しており、本研究は海水からのレアメタルやレアアース等の回収技術の開発にも繋がることが期待される。