植物研究助成 25-07
伊豆半島菌類の生物活性物質生産菌としての有用性に関する研究
代表研究者 | 北里大学 北里生命科学研究所 助教 野中 健一 |
【 背景 】 |
申請者は有用物質の探索源として過去に一度も大陸と地続きになった歴史を持たない海洋島と呼ばれる島に生息する菌類に着目している。海洋島はその特殊な環境故に動植物ともに固有種が多く、生物相が本土と大きく異なっている。この事は植物と関連の深い菌類にもあてはまり、申請者は海洋島である伊豆諸島、小笠原諸島の6島と本州の間では菌類相が大きく異なる事を明らかとし、多くの有用物質の発見につなげてきた。伊豆半島もかつては海洋島であり約60万年前に本州に衝突したと推定されている。伊豆半島が海洋島から本州の一部になったことで生物がお互いに行き来が可能となったが、60万年経った現在でも伊豆半島にしか生息していない固有植物が多く存在する。しかし、目に見えない菌類については知見が乏しく、創薬資源としての有用性も明らかではない。 |
【 目的 】 |
前年度の研究において伊豆半島の菌類相(不完全菌類)が本州よりも伊豆諸島に近い事を明らかとした。そのため、それらの化合物生産能力にも期待がかかる。本年度は、菌類相を明らかとする地域を伊豆半島近傍で海洋島ではないが形成様式が類似している淡島と初島にまで拡大し、これら2島と伊豆半島で収集した菌類の化合物生産能力を明らかとする。前年度と同様に土壌中に広く生息している不完全菌類を研究対象とする。 |
【 方法 】 | |
(1) 淡島(沼津市)と初島(熱海市)の植物の根本から土壌を採取し、寒天培地を用いて希釈平板法で不完全菌類を分離する。(2) 全分離菌株について顕微鏡下での形態観察およびDNA解析を行なう事で網羅的に種レベルでの同定を行なう。(3) 収集した菌株から重複株を除いた後、申請者が開発した独自の生産培地で培養液を調製する。(4) 全培養液について北里生命科学研究所で既に確立された評価系(抗細菌、抗真菌、抗寄生虫、殺虫など)で各種活性物質の生産能力の判定を行う。 |
【 期待される成果 】 | |
菌類からは医薬品を始め多くの有用物質が発見されている。菌類の種と生産される化合物の間には高い相関があるため、未知種や珍しい菌類であれば未発見の有用物質を生産する可能性が高い。申請者らは日本本土に比べ海洋島から未知糸状菌が発見される割合が高いことを明らかとし、海洋島由来の糸状菌から30以上の新しい物質を発見してきた。伊豆半島の菌類相がかつて海洋島であった頃に近い状態であることが明らかとなったため、伊豆諸島等と同様に多くの有用物質が発見される事が期待される。 |