植物研究助成

植物研究助成 25-11

広義サクラ属(Prunus)の冬芽形態の多様性と進化

代表研究者 東京学芸大学 教育学部自然科学系
准教授 岩元 明敏

背景

  広義サクラ属(Prunus)は多様な植物を含む群であるため、果実の形態などに基づきスモモ属(Armeniaca)、モモ属(Prunus)、アンズ属(Armeniaca)、ウワミズザクラ属(Padus)、バクチノキ属(Laurocerasus)、そして狭義サクラ属(Cerasus)の6属に分割するという見解が提案されている(Ohba & Endo 2001)。しかし、分子系統解析の結果、この分類は系統を反映していないということが分かった(Lee & Wen 2001, 2008)。一方で、広義サクラ属の冬芽形態には多様性があり、系統を反映した形質である可能性が示唆されている(Iwamoto et al. 2001; Iwamoto and Mochizuki 2009; 岩元2013)。しかし、広義サクラ属全体にわたっての冬芽の形態観察は完了しておらず、またこの形質が系統を反映しているかを検証するための精度の高い分子系統樹も得られていない。

目的

 広義サクラ属20種の冬芽の形成と展開を年間を通じて詳細に観察し、その多様性を明らかにすることを目的とする。さらに、約60種の広義サクラ属について精度の高い分子系統樹を作成して形態解析の結果と比較を行うことで、冬芽形態が系統進化を反映した形質であるかを検証する。

方法

 熱海植物研究園内に植栽されている広義サクラ属植物について詳細な現状調査を行った後(本財団の植物研究助成を受けた東京大学大学院・邑田仁教授の調査・研究から少なくとも10種以上の広義サクラ属植物が植栽されていることが明らかになっている)、分割後の6属全てを網羅する形で研究園内に植栽されている植物を中心に20種の栄養枝を研究期間内、1ヶ月毎に採集する。20種のうち、植物研究園内に植栽されていないものについては、東京大学大学院理学附属植物園(小石川植物園)で採集する。これらの採集サンプルについて、茎頂および腋芽分裂組織の表面構造を電子顕微鏡(SEM)を用いて形態観察し、年間を通じて冬芽がどのような過程で分裂組織から形成され、展開しているかを明らかにする。さらに核及び葉緑体の塩基配列を用いて、形態観察した植物を含め約60種の広義サクラ属について分子系統解析を行う。この系統樹上に観察した形態データを配置する。

期待される成果

 本研究により、広義サクラ属冬芽形態と系統との関係が明らかとなる。これまでの研究から、冬芽形態は広義サクラ属の系統を反映した形質である可能性が高い。したがって、本研究の成果を用いることで、系統進化を反映した広義サクラ属の新たな分類体系を構築することが期待される。