植物研究助成

植物研究助成 25-12

植物の青色光受容体機能の検出技術開発とその利用

代表研究者 新潟大学 理学部
教授 酒井 達也

背景

 植物は青色光を受容することによって自らが光環境にいることを認識し、生体内のリソースを物質生産に振り分け、免疫系を高め、葉の成長を促進している。フォトトロピン(phot)はこのような青色光の効果を生み出す青色光受容体の一つであることが示唆されているが、未だその働きの分子機構は明らかになっていない。我々は phot の細胞内シグナル伝達経路の研究を行い、phot が遺伝子発現調節を介して植物の成長の少なくとも一部を調節していることを明らかにした(未発表)。これまでの研究では、phot による遺伝子発現調節は検出されていなかったが、これは青色光によって活性化する他の光受容体の機能重複によって、phot による遺伝子発現調節としては検出できなかったことが原因と考えられた。

目的

 本研究は、他の光受容体機能によってマスクされている phot の遺伝子発現調節の検出方法を開発し、その分子機構を理解することによって青色光による植物の生体制御機構の実態を解明することを目的に研究を行う。

方法

 本研究は phot シグナル伝達経路を青色光なしに活性化させる技術を開発し、phot1 によって発現調節を受ける遺伝子群のプロファイリングを行う。シロイヌナズナ phot1 分子は 608 番目のイソロイシン残基(I)をグルタミン酸残基(E)にアミノ酸置換すると、青色光吸収することなく常に活性化して下流にリン酸化修飾のシグナル伝達を起こす。そこで恒常的活性型 phot1I608E をコードする遺伝子を化学物質エストラジオールによって発現誘導する形質転換体を作成した。本形質転換体は暗条件下でも、エストラジオール処理によって phot1 シグナル伝達経路の活性化が検出できた。当該研究課題においては、本形質転換体のエストラジオール処理有り無しにおける遺伝子発現パターンを次世代シークエンサーを用いて網羅的に解析し、phot1依存的な遺伝子発現調節機構を明らかにする。

期待される成果

 現在、主に植物工場のLED光源利用において、青色光の物質生産や病虫害抵抗性の調節の効果が注目されている。本研究によって、植物に対する青色光効果の分子基盤を理解し、農学的なLED光源の効率的利用が可能となる。また緑藻類より存在する phot 分子の生化学的機能を明らかにすることによって、植物の光環境応答の進化解明に貢献する。