植物研究助成 29-03
伊豆地方を中心とした大型淡水藻類の多様性情報学的解析と保全
代表研究者 | 神戸大学 大学院理学研究科 准教授 坂山 英俊 |
【 背景 】 |
大型淡水藻類は湧水や貧栄養から富栄養の淡水・汽水域に生育し、環境の指標生物や淡水域の透明度維持の「かなめ」となる役割を果たしている。しかし、近年の淡水生態系破壊の結果、急速に大型淡水藻類の衰退が進行している。近年、このように生態学的に極めて重要であり絶滅危惧種を多く含む大型淡水藻類の実体解明に向けた研究や施策が多く行われている。しかし、大型淡水藻類における分類学的混乱や種同定の難しさが種の保全や淡水生態系保全に向けた研究や施策の進展の大きな妨げとなっている。また、伊豆地方から過去に多くの大型淡水藻類が報告されているが、それらの生育の現状と分類学的位置づけは十分に理解されていない。 |
【 目的 】 |
本研究では、伊豆地方を研究対象とし、絶滅危惧種を多く含む大型淡水藻類を採集し、種情報・遺伝子情報を収集、解析し、分類学的位置づけ、種間・種内の系統関係、伊豆地方に生育する集団の固有性を解明し、保全に向けた網羅的な多様性情報データベースを構築する。また、解析を終えたサンプルの培養株を確立し、域外保全リソースとして系統保存する。 |
【 方法 】 |
植物研究園を拠点とした野外調査により大型淡水藻類を採集する。前年度の結果をふまえ、本年度は伊豆諸島を中心とした調査を実施する。採集品は培養株、さく葉標本等にし、その一部を遺伝子解析に用いる。光学顕微鏡または電子顕微鏡を用いた外部形態観察およびDNAバーコーディングによって種同定を行い、DNA配列に基づく分子系統解析によって種間・種内の系統関係を明らかにする。倍数体が含まれる可能性がある場合は、染色体観察、フローサイトメトリーによる倍数性解析を行う。得られた種情報・遺伝子情報をデータベース化する。 |
【 期待される成果 】 |
伊豆地方における大型淡水藻類の多様性情報基盤が構築されることにより、高精度かつ迅速な種の識別が可能になる。また、絶滅危惧種の保護管理のための意志決定を支援する情報を提供できる。さらに、生育地/ジェノタイプ単位で培養株を保存することにより、将来、絶滅した集団の生育地への再導入、および衰退した集団への個体(ジェノタイプ)の補完が可能となる |