植物研究助成

植物研究助成 29-05

伊豆半島に由来する早咲き性サクラの自発休眠覚醒の分子機構の解析

代表研究者 京都府立大学 大学院生命環境科学研究科
教授 板井 章浩

背景

  伊豆半島には、本州一早咲きの熱海桜、河津桜を始めとして、早咲きのサクラが多数見られる。サクラの開花は多くの日本人が楽しみにしており、「花見」の経済効果は非常に大きい。サクラの花芽は、前年の夏に形成され、秋冬期の低温で自発休眠期に入り、ある一定の遭遇時間(低温要求量)を経て、その後他発休眠期に入り、春の気温上昇で開花に至る。熱海桜、河津桜の早咲き性は、自発休眠期(低温要求量)の少なさおよび他発休眠期の低温伸長性が関与している可能性がある。また熱海桜,河津桜はいずれもカンヒザクラの雑種であり、カンヒザクラの遺伝子が早咲き性の要因となっていると考えられるが、どのような遺伝子が働いているのか、明らかとなっていない。

目的

 本研究では、‘熱海桜’および‘河津桜’の早咲き性の要因としての、自発休眠期の低温要求量と他発休眠期における低温伸長性の調査を行い、それぞれの時期のどのような要因が、早咲き性をもたらすのか明らかにする。また、夏から開花期まで経時的に花芽のトランスクリプトーム解析を行い、時系列に沿った発現パターン解析と品種間比較、同時に遺伝子群の発現ネットワーク解析から、早期開花性に関わる分子機構と遺伝子を明らかにする。

方法

‘熱海桜’、‘河津桜’、対照区として‘染井吉野’を材料に用いる。果実の成熟後の6月より翌年の開花期まで、花芽を経時的にサンプリングし、RNAを抽出し、トランスクリプトーム(RNA−seq)解析を行い、網羅的遺伝子発現情報を得る。また、同時に ‘河津桜’のゲノムシーケンス解析を行い、これまでに我々が明らかにした‘染井吉野’のゲノムとの比較も行う。これら網羅的遺伝子発現情報、比較ゲノム情報を統合し、早期開花性に関わる分子機構と遺伝子を推定する。

期待される成果

 開花期を制御する遺伝子群を同定できれば、より高精度な開花予測技術の開発が可能になる。‘熱海桜’および‘河津桜’を含むサクラはそれぞれ開花にあわせたイベントが行われているが、このようなイベントの開催時期の予測が可能になり経済的損失を減少させうる。さらに開花期を制御する遺伝子群について、同定できればDNAマーカーの作出が可能になり、開花期の違いを目的としたサクラの育種が可能になる。