植物研究助成

植物研究助成 29-12

水田における温室効果ガス・水稲生育阻害ガスの同時連続測定システムの開発

代表研究者 大阪大学 大学院理学研究科
助教 中山 典子

背景

 水田を湛水することは水稲栽培において欠かせない過程である。湛水によって、水田土壌中では還元状態が発達していくが、水稲栽培ではこの還元化の過程を上手く利用することで、様々なメリットを享受している。しかし、還元化が過度に進行すると、生育阻害(根腐れや養分吸収阻害)を引き起こす硫化水素や、温室効果ガスであるメタンや亜酸化窒素が土壌中に発生する。これらのガス種は、同じ還元的な水田土壌環境に関連して生成されるにも関わらず、相互関係も含めて、水田土壌中でいつどれだけ生成され、どれだけ大気へ放出されるのか、水稲の生育にどれだけ影響を及ぼすか等、一括して定量的に研究された例はない。

目的

 本研究では、主に還元環境下の水田土壌で生成・消費される温室効果ガス(CH4, N2O, CO2)と水稲生育阻害ガス(H2S)の両者に注目して、これら多成分ガスの(1)水田土壌中の濃度、(2)水田から放出・吸収されるフラックスの、同時連続測定システムを開発する。開発したシステムを用いて、水田における多成分ガス観測を行い、水田の土壌状態・土壌化学状態、気象変化、水稲育成状況等のデータと比較対照し、ガス種の生成を決める要因やガス種間の相互関係について明らかにしていく。

方法

 水田土壌中の溶存ガスはメンブレンフィルターを用いた直接ガス抽出法で連続採取し、水田からのガス捕集には自動開閉チャンバー法を用いる。これらのガス連続採取システムを構築し、我々が開発した独自の測定技術である可搬型マルチターン飛行時間型質量分析計MULTUMや、炎光光度検出器付きガスクロマトグラフィーと連結させ、水田ガスの多成分同時連続測定システムを構築する。水田ガスの連続測定は、愛媛大学農学部附属農場水田フィールドにて実施する。

期待される成果

 本研究課題によって、水田土壌還元化の進行に伴う温室効果ガスならびに生育阻害ガスの挙動が、同時に明らかにされる。これらの土壌の酸化還元状態と作物生育ならびに温室効果ガス生成に関する包括的な観測データは、生育阻害発生リスク低減と効果的な温室効果ガス削減を両立させる科学的ベースとなる。世界的な課題である農地における持続的な農業生産と環境保全の両立に、大きく貢献できると期待される。