植物研究助成

植物研究助成 29-21

伊豆御蔵島に自生する絶滅危惧植物コイワザクラの系統的起源と遺伝的多様性

代表研究者 兵庫教育大学 大学院学校教育研究科
助教 山本 将也

背景

 コイワザクラ(サクラソウ科)は典型的なフォッサマグナ要素植物であり、関東山地や丹沢山地の冷涼湿潤な環境を本拠とする。一方で、紀伊半島と伊豆御蔵島にも生育が認められ、著しい隔離分布パターンを示す植物でもある。
 しかしながら、コイワザクラが異型花柱という特殊な繁殖様式をもつこと、さらに移動分散能力が極めて低いことを鑑みると、海洋島である御蔵島への移入経路や集団の成立過程については多くの疑問が残る。

目的

 本研究では、御蔵島集団の(1)系統的起源、(2)遺伝的多様性、(3)繁殖生態を解明することによって、海洋島に隔離分布する集団の来歴を紐解くことを目指す。

方法

(1) 御蔵島の繁殖状態を明らかにするために、個体数・モルフ比・種子生産数・訪花昆虫相を調査する。
(2) コイワザクラの分布域を網羅するように集団サンプリングを行い(既に15集団ほどのサンプルがあるので補完的に行うものである)、核マイクロサテライト等の複数のDNAマーカーを用いた集団遺伝解析によって、御蔵島集団の固有性と系統的起源、過去の集団動態を復元する。
(3) 繁殖状況と遺伝的多様性解析の結果に基づいて、御蔵島集団の保全方法について検討する。

期待される成果

 御蔵島は伊豆諸島の他の島と比較しても例外的に北方系の植物が多く、特に箱根山と御蔵島に共通して分布する高地性植物の移入時期・成立過程は未だ謎に包まれている。
 本研究によって、それらの植物が辿ってきた歴史の一端が明らかになることが期待される。また研究成果は、絶滅が危惧される本種の保全において大変有益な情報をもたらすものと考えられる。