植物研究助成

植物研究助成 30-01

カモメヅル属における送粉者タマバエと植物の特異な共進化過程の解明

代表研究者 東京大学 大学院理学系研究科
助教 望月 昂

背景

 多くの被子植物は花粉や花蜜を報酬とする様々な動物に送粉される一方で、イチジク属など一握りの植物は自身の花組織で繁殖する動物に送粉される。繁殖場所を報酬とした送粉共生系”Brood-site pollination”では植物と送粉者が互いに繁殖を委ねあう高度な特殊化を遂げており、共進化の好適な例であるが、近縁種が存在しないなどの理由で、特殊化を促した進化的背景や、種特異性を獲得する過程は明らかでない。

目的

 本研究では、本邦固有種であるキョウチクトウ科オオカモメヅルの花で送粉者と思われるタマバエ科昆虫が繁殖していることに着目し、これが新たなBrood-site pollinationの一例であることを示し、さらに近縁種との比較から送粉様式の進化プロセスの解明を目指す。

方法

 オオカモメヅルと、伊豆半島固有種のイズカモメヅルを含む箱根伊豆地域に産するカモメヅル属の近縁種を対象に、送粉者の調査、花で繁殖するタマバエの調査、花香の成分分析を含む花の諸形質の測定を行い、送粉様式を明らかにする。また、系統樹を用いた種間比較を行い、カモメヅル属植物と花で繁殖するタマバエの進化的関係性を明らかにする。

期待される成果

(1)本研究は、キョウチクトウ科を含む約7万種を擁するキク類での初めてのBrood-site pollinationの報告となる。
(2)本研究では複数の近縁種を対象に調査を行うことで、タマバエと植物の共進化のプロセスを克明にできると期待される。仮説として、カモメヅル属植物では、タマバエは祖先的に花に寄生しており、派生的に植物が送粉者として利用するようになった可能性が考えられる。また、タマバエへの特殊化に伴う花形質の変化に着目することで、Brood-site pollinationの進化のカギとなる適応を明らかにできると予想される。