植物研究助成

植物研究助成 30-03

伊豆諸島の固有種オオシマツツジにおける菌根菌共生メカニズムの解明

代表研究者 静岡大学 学術院農学領域生物資源科学科
助教 富永 晃好

背景

 オオシマツツジは、伊豆諸島に自生する我が国固有のツツジ科植物である。伊豆諸島の山頂付近は火山灰や岩石の風化によって砂漠地帯が広がっており、この中にオオシマツツジを優占種とした「緑の島」と呼ばれる植物群落が点在している。「緑の島」は日本で唯一伊豆諸島にのみ確認される珍しい生態系であり、貧栄養土壌条件下における植物生態系の成り立ちを考察する上で貴重な情報源になり得る。前年度の研究により、「緑の島」はオオシマツツジとクロマツが同じエリコイド菌根菌と共生して成り立っている可能性が示唆された。さらに、「緑の島」ではオオシマツツジに次いでオオシマハイネズが多く生息しており、菌根形成が確認された。

目的

 そこで、「オオシマツツジとオオシマハイネズは特定の菌根菌でつながっており、植物・菌・植物の3者間共生が「緑の島」の初期の成り立ちに関与しているのではないか」と考えた。本研究では、砂漠地帯に形成された「緑の島」の菌根菌共生メカニズムを解析することで、貧栄養条件下で植物生態系が成り立つ過程の基礎的知見を得ることを目的とする。

方法

 (1)伊豆諸島(神津島)の「緑の島」においてオオシマツツジとオオシマハイネズの根を採取し、菌のITS領域の塩基配列を決定することで、両種に共通する菌根菌を同定する。(2)安定同位体13Cを用いて、植物間の光合成産物の輸送を調査する。(3)オオシマツツジ・菌根菌・オオシマハイネズの3者間共生に特徴的な分子メカニズムを解明するために、各植物の根からRNAを抽出し、次世代ゲノムシーケンサーを用いたRNA-seq(全遺伝子発現解析)を実施する。

期待される成果

 本研究により、「緑の島」の菌根菌共生メカニズムの分子生物学的知見が得られる。この知見で植物・菌・植物間の共生を証明出来れば、世界初の報告となり学術的に重要な意義がある。さらに植生回復の観点では、「植物を植える」という従来の概念を覆し、「植物・菌・植物間の共生を成立させる」という新たな生態系保全技術の開発につながることが期待される。