植物研究助成

植物研究助成 30-05

混交林に隠された外生菌根菌の宿主選好性と生物地理パターン

代表研究者 京都大学 大学院人間・環境学研究科
助教 佐藤 博俊

背景

  温帯林や熱帯林の優占樹種の共生菌である外生菌根菌では、多くの種で、宿主とする樹種を選ぶ性質をもつこと(宿主選好性)が報告されている。一方で、特定の樹種と共生する外生菌根菌群集を調べると、宿主樹種やその近縁系統の分布しない地域と共通する菌種がしばしば多数見つかる。なぜ、このような矛盾が見られるかについては十分な知見がないのが現状である。

目的

 私は、上記矛盾に対する解釈として、『外生菌根菌は宿主樹種を選ぶ性質は強いが、混交林では、二次的に周囲の樹種に感染を拡大する』という仮説を考えている。つまり、同じ樹種の外生菌根菌群集を比較したとき、純林ではその樹種を選好する菌種のみで構成されるが、混交林では共存する他の樹種を選好する菌種も含まれるという仮説である。本研究では、この仮説の検証を行う。

方法

 本研究では、シイ等の暖温帯性樹種ともブナ等の冷温帯性樹種のどちらとも混交するアカガシと共生する外生菌根菌を調査対象とする。その上で、アカガシと混交する樹種の有無や種類によって、調査地と共通する菌種の分布する地域がどう変化するかを検証する。調査地としては、ブナとの混交林として山門水源の森(滋賀県)と君ヶ畑(滋賀県)、シイとの混交林として天城山浄蓮(静岡県)、常隆寺(兵庫県)と愛宕山(京都府)、そしてアカガシ単生の場所として長浜市黒田(滋賀県)、毛原大岩神社(京都府)と天王(大阪府)を予定している。各調査地でアカガシの成木の近くから土壌コアを20個採集する。その後、菌根を構成する菌類と植物のバーコード領域の塩基配列をイルミナ社のMiSeqで解読し、分子同定を行う。菌類の配列は塩基配列データベース上で類似配列を検索し、共通する菌種の分布する国を探索する。最終的に、調査地ごとに、全球規模での分布推定モデリングを行い、混交する樹種の有無や種類によって共通種の分布パターンがどのように変わるかを検証する。

期待される成果

 本研究は、これまで見過ごされてきた外生菌根菌の宿主選好性の性質を明らかにする研究である。また、本研究を通して、外生菌根菌の分布形成、種分化や多様化において、宿主樹種との共進化がどのような役割を果たしているかについても理解が進むと考えている。