植物研究助成 30-07
クロマツ高木における日常的な蒸散活動に対する幹の貯留水利用の可能性
代表研究者 | 神戸大学 大学院農学研究科 助教 東 若菜 |
【 背景 】 |
背の高い樹木(高木)では根から葉への通水距離が長いため、葉の蒸散要求が急激に高まると幹における通水機能が制限されることがある。これは「水分通導制限仮説」として樹木の樹高成長の制限要因の一つであると考えられている。一方,通水経路内に貯留水があれば、これが電気回路におけるコンデンサーのように働き、通水機能の損失を回避できる可能性がある。高木におけるこれらの調査には、地上から離れた樹冠にアクセスし、高解像度な測定技術を必要とする。そのため、国内外においても研究事例は非常に限られており、未だどのような条件において、どのような種において幹の貯留水が日常的に利用されうるかについて一般的な理解は得られていない。 |
【 目的 】 |
本研究では、高木種クロマツにおける成長制限に対する補償メカニズムとして、日常的な蒸散活動に対する幹の貯留水寄与の可能性を検証する。また、貯留水の寄与が認められた場合、①樹高の高い木ほど貯留水の寄与が大きくなる、②高温や無降雨によって貯留水の寄与が大きくなる、という仮説について検証する。 |
【 方法 】 |
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植物研究園内の樹高10m以下のクロマツ、および、植物園から約15qに位置する神奈川県真鶴半島に生育する樹高30m以上のクロマツを調査対象とする。デンドロメーターおよび樹液流センサーを幹の上部と下部に設置して長期観測し、幹内の貯留水利用を評価する。高木の幹上部への機器の設置には、ロープを用いたツリークライミング技術によって、調査対象樹木を撹乱することなく実施する。 |
【 期待される成果 】 |
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近年ますます懸念されている気候変動にともなう樹木の成長や生存に対する影響を理解するためには、樹木の成長に関わる制限要因の把握のみならず、それらに応じた樹木の補償メカニズムの理解が必然である。本研究は、生理学的観点から高木種の成長における適応性を評価することにつながると期待される。日本においてクロマツは海岸植生には欠かせない樹種であり、伊豆半島周辺にも多数生育する。本研究は、高木ゆえに樹冠へのアクセスが難しく測定困難であったクロマツの個体全体の水利用特性についての知見を提供しうる。 |