植物研究助成

植物研究助成 30-08

日本海要素植物ワサビのフェノロジー分析

代表研究者 岐阜大学 応用生物科学部生産環境科学課程
准教授 山根 京子

背景

 ワサビは日本固有種であり、重要な栽培植物であるにもかかわらず、その生態は不明な点が多く、遺伝学的な基礎研究はほとんど行われてこなかった。自生地が人里から離れた僻地であることが多く、多雪地帯では年間を通じた観察が難しいなど、種々の要因が考えられる。一方、ワサビ生産においては辛味の程度が季節によって変化することはよく知られた現象であるにもかかわらず、季節の移り変わりにともなう形態や成分など変化(=フェノロジー)については全く研究されてこなかった。

目的

 本研究では、安定的に維持管理されている新技術開発財団の植物研究園におけるワサビを利用し、フェノロジー測定を行うことを目的とした。これまで、辛味関連成分であるグルコシノレートのプロファイリングと季節変動についてデータの収集を行ってきたので、今回は、ワサビの辛味の主成分であるアリルイソチオシアネートなど、グルコシノレート分解物をガスクロマトグラフィーで分析する。

方法

 前回は同一個体の季節変動を調査するために、葉を用いたが、今回は根茎のグルコシノレートとイソチオシアネート類の分析を行う。また、比較のために、日本各地の野生ワサビのフェノロジー調査と、研究室内における水耕栽培も同時に行うことで、ワサビにおける季節変動とその要因について考察する。

期待される成果

 本研究で基本的なフェノロジー情報が得られれば、ワサビに関する学術的な基盤情報を得ることができるだけでなく、生産現場においても、品種改良や遺伝資源の持続的な利用のための有用な情報を得ることが期待できる。また伊豆半島は、ワサビ生産において最も重要な産地の一つでもあるため、得られた情報を直接現場で活用することができる。さらにワサビは、日本海側の積雪量の多い地域に適応して進化した日本海要素植物であることがわかっている。近年の地球温暖化の影響を受けやすい植物群であることが知られ、実際に自生地の減少が顕在化しつつある。フェノロジー分析は、こうした気候変動にともない、危機的な状況に直面している集団に対する保全のための適応策を検討するうえでも重要な情報を提供できると考えられる。