植物研究助成

植物研究助成 30-10

土壌中の栄養成分の電気化学センサによる直接評価法の開発

代表研究者 京都大学 大学院農学研究科
教授 白井 理

背景

 植物の生長に合わせて栄養成分の種類及び濃度を制御できれば、農作物の成長促進や高品質化が期待できる。土耕栽培では水分量が一定ではないので、土壌中の栄養成分量の評価は困難である。しかし、専門的な知識や前処理などの操作を要せず、持ち運びが簡単で、且つ安価で容易に栄養成分濃度が測定できれば、施肥による栄養成分濃度の制御が可能となる。本研究では、過剰な施肥による湖沼や河川など環境水の富栄養化を抑制し、農業の精密化をめざす。

目的

 土壌中にイオンセンサを直接挿入して各イオン濃度の測定を行う場合、センサ用電極と基準となる参照電極間は十分な水相で満たされておらず、土壌粒子表面や隙間に介在する水相を介して二極間の電位差を測定する。したがって、二本の電極間をできるだけ近接させないと測定ができない。参照電極としては、一般的に安定性、価格、安全性等からAg|AgCl電極が利用されている。しかし、Ag|AgCl電極を使用すると塩橋部分から内部電解質のKClが外部へ流出する。NO3-センサの場合、10-5〜10-4M(mol L-1) 程度のNO3-を測定する際にK+やCl-が10-3M以上共存すると妨害が現われる。流出するKClの影響によりK+及びNO3-の正確な定量が不可能となる。そこで、内部溶液および塩橋内の電解質の流出の影響が全くないあるいは内部電極からの電解質の流出の影響がない参照電極を構築し、共存物の妨害の影響がない電極系の構築を目的とする。

方法

 内部溶液の電解質の流出が全くない、Ag|AgCl電極以外の参照電極系を考案する。Ag|Ag+(硫酸銀)電極の使用や電解質の流出の影響が無視できる参照電極系を構築する。その際、MgSO4のような電解質を利用し、KClの流出を抑制する。溶液のpHが一定であれば、水素吸蔵パラジウムの表面はH2|H+対の酸化還元によってゼロ電流電位が決まる。この特性を活かした参照電極を作製する。

期待される成果

 液間電位を発生させない意味でもKClが用いられてきたが、液間電位が一定であれば使用可能となる。水素のみを放出する系あるいは極めて親水的で無害のMgSO4が流出する系であれば、生体や環境のその場分析や食品・医薬品の品質管理にも流用できる。このような参照電極ができると、妨害の影響を抑制できるので低濃度までの測定が可能となり、様々な分野で役立つと期待される。