植物研究助成

植物研究助成 30-19

気孔開口制御による高バイオマス・高乾燥耐性植物の開発

代表研究者 名古屋大学 大学院理学研究科
講師 井上 晋一郎

背景

 植物は太陽光のもと光合成を行い、生長のエネルギー源である糖やデンプンなどの有機物を生合成する。このとき植物は、葉面にある「気孔」と呼ばれる穴を開いて大気中からCO2を取り込み、光合成に利用する。また植物は、乾燥ストレス時にはホルモンであるアブシジン酸を産生して気孔を速やかに閉じ、植物体からの水分損失を防ぐ。このように、気孔開閉は植物の光合成と乾燥耐性に重要である。
 このことから、植物の光合成とバイオマスを増産するために気孔開口を促進させ、また、乾燥耐性を高めるために気孔開口を抑制することが有効だと考えられる。ところが、農作物や有用植物において気孔開閉制御に関する遺伝学的な研究例が少なく、気孔開閉能とバイオマスの関係性に関する知見は乏しい。まずはモデル植物であるシロイヌナズナの気孔開閉メカニズムの知見を有用植物へと応用し、気孔開閉の人為的な制御や、気孔開閉能とバイオマスの関係性を明らかにする必要がある。

目的

 そこで本研究では、申請者のこれまでの研究知見をもとに、非遺伝子組換え技術により有用植物の気孔開口を制御し、高バイオマス・高乾燥耐性植物の開発を目指す。これらにより、野外圃場における有用植物の実用的な栽培への足がかりとする。

方法

 申請者がシロイヌナズナで同定した気孔開口の制御因子の知見をもとに、有用植物を用いて気孔開口が促進、もしくは低下する変異体を変異体プールから取得、もしくはゲノム編集により作成する。
 これらの変異株の気孔開口に関する表現型を詳細に特徴づけ、変異体の気孔表現型とバイオマス・乾燥ストレス耐性を関連づけて評価する。

期待される成果

 気孔開口が促進した作物は、水ストレスがない環境下においてバイオマスと収量の増加が期待できる。一方、気孔開口が低下した作物は、水ストレス環境下で高い乾燥耐性を示すことが期待される。従って本研究は、サステナブルな農業に有益な高バイオマス作物や、砂漠の緑化に貢献する高乾燥耐性植物の開発につながるため、将来的な「みどりを守り育成すること」に貢献し得る。