植物研究助成

植物研究助成 30-20

植物-病原体-昆虫の相互関係におけるウイルス感染の影響評価

代表研究者 新潟大学 自然科学系(農学部)
助教 湊 菜未

背景

 植物に感染して病気を引き起こすウイルスの多くは昆虫によって媒介される。昆虫媒介性ウイルスを中心とした「植物?ウイルス?媒介昆虫」の相互関係において、媒介昆虫は唯一能動的に移動・拡散する能力を持つ。したがって昆虫媒介性ウイルスは、媒介昆虫の宿主植物選好性を操作することにより自身の感染拡大を画策しているが、このような病原体を介した種間相互作用が生態系の植物・昆虫群衆構造に与える影響については未だ知見が乏しい。

目的

 本研究の目的は、1)宿主選好性を操作するウイルス因子の探索、2)宿主選好性に寄与する物質の同定、3)ウイルスによる昆虫操作機構の非媒介昆虫に対する影響の解析の3点によりウイルスによる昆虫の植物宿主選好性操作メカニズムを明らかにすることである。

方法

 本研究では、本邦を含む六大州に広く分布するムギ類を犯すウイルスとムギ類モデル植物であるミナトカモジグサ、および媒介昆虫・非媒介昆虫を用いて3項目について解析を実施する。まず宿主選好性操作に関わるウイルス因子を探索するため、ウイルスタンパク質を発現する形質転換植物において昆虫忌避能を評価する。次に、宿主選好性を決定づける植物由来の物質を同定するため、ウイルス感染植物より葉身中の有機化合物を抽出して候補化合物を選定する。最後に、ウイルス非媒介昆虫を用いてウイルスによる誘引・忌避機構の宿主選好性への影響を検証する。

期待される成果

 本研究はウイルスの媒介昆虫操作戦略が非媒介植食性昆虫に与える影響を明らかにするものである。これまでに昆虫媒介性病原体が植物において昆虫誘引・忌避に寄与する有機化合物を産生させることが報告されているが、昆虫忌避物質に対する感受性は昆虫の食性によっても異なることが知られており、ウイルス感染に対する植物応答が生態系において病原体を媒介しない植食性昆虫の群衆構造をも変化させる可能性が考えられる。モノカルチャーによる特定の病原体の甚発生に起因する植食性昆虫の行動変化により脅かされる植物生態系の保全に向けて、虫媒性病害・虫害に対する統合的防除技術の構築に向けた足掛かりとなることが期待される。