植物研究助成

植物研究助成 30-23

簡便に誘導できる植物再生技術の確立

代表研究者 東洋大学 生命科学部応用生物科学科
教授 梅原 三貴久

背景

 植物の再生技術は、種子を得にくい植物、遺伝子組換え植物、商業価値のある植物の増殖に必要不可欠な技術である。通常、植物体を再生させるためには、培養培地に器官形成を誘導する植物ホルモンの添加が必要である。しかし、どの植物ホルモンをどのくらいの濃度で添加するか、その最適条件は植物種によって異なるため、培養条件の確立には時間がかかる。薬用植物のトコンは非常に生命力が強く、茎を切り出して植物ホルモン無添加の培地で植物体を容易に再生できる。したがって、外から添加した生理活性物質の影響を直接評価でき、また再生中の内生植物ホルモンの動態や遺伝子発現変動を調査できる。

目的

 本研究では、トコンの植物体再生系を利用し、切り出した茎の断片の内生植物ホルモン量および器官形成に関わる遺伝子の発現変動を解析することによって、植物組織を本体から切り出すだけで植物体再生が始まる仕組みを解明する。また、ケミカルライブラリーをもとに新規植物体再生誘導物質を探索する。

方法

 植物体再生における内生植物ホルモンの影響を明らかにするために、オーキシン、サイトカイニン、ストリゴラクトンなどの植物ホルモンの生合成・輸送・作用阻害剤を処理し、内生植物ホルモンの変動と植物体再生率との関係を調ベル。また、トコンの植物体再生に関わる遺伝子群を特定するために、RNA-seq解析による網羅的な遺伝子発現解析を行う。さらに、生理活性物質のケミカルライブラリーを使って、トコンの植物再生率を高める化合物を探索する。

期待される成果

 本研究では、茎を切り出すだけで植物体が再生できるシステムを明らかにする。また、植物体再生効率を向上させる新規化合物を見つける。植物の再生を簡単に誘導できれば、地球環境の変動や人為的な環境汚染による絶滅危惧植物の増殖や重要な植物遺伝資源の保存、持続可能なみどりの回復・再生に貢献できる。トコンのユニークな特徴を最大限に活用し、将来、iPS細胞の山中ファクターの植物版とも言える植物体再生因子を新たに同定する。