植物研究助成

植物研究助成 31-02

植物進化研究を加速させる接合藻類の系統保存株の確立

代表研究者 日本女子大学 理学部
助教 大 きぬ香

背景

 植物の陸上化は、現代の地球環境の形成にとって重要なイベントであった。陸上植物は、車軸藻植物門から派生したと考えられている。近年、車軸藻植物門の中でも、接合藻目が陸上植物に最も近縁であるという説が有力になっている。接合藻目では、ヒザオリ(葉緑体転移運動)、タテブエ (細胞壁)、ミカヅキモ(有性生殖)などがモデル生物として古くから注目され、アオミドロ(有性生殖)などもここ数年で研究が進んでいる。このように、実験のしやすさに加えて、系統学的な位置の重要性からも、今後植物の進化の研究を行う上で、接合藻類の研究を進めることが必要不可欠である。しかし、これらの接合藻類全般において、系統保存株が非常に少なく、すでに接合能力を失った株も多く、陸上植物への進化を研究するには不十分であることが問題点としてあげられる。

目的

 本研究では、植物研究園を拠点として、園内および伊豆半島を含むその周辺地域について、重点的に接合藻類(ヒザオリ、タテブエ、アワセオウギ、ミカヅキモ、ホシミドロ、アオミドロなど)のサンプリングを行い、分布を調査する。同時に、細胞の単離を行い、新たな系統株確立を目指す。

方法

 (1)植物研究園内外数カ所の拠点からそれぞれサンプリングを行う。(2)顕微鏡下で、接合藻類の単離を行う。(3)得られた単離株について実験室内での安定的な培養系を立ち上げ、系統株確立を行う。(4) 接合藻類は接合様式によって種の分類が可能なケースがあるため、得られた系統株について交配試験を行う。(5) それぞれの接合藻類において、18S rDNAを指標とした系統解析を行い、(4)の結果と合わせてどの分類に属するのかを決定する。

期待される成果

 現在保存されている接合藻類の系統保存株が少ないことから、新たな系統保存株が取得できれば、接合藻類における研究をさらに進めることのみならず、陸上植物への進化過程の研究を発展させることができる。また近年、地球環境の汚染に伴った接合藻類の消滅も危惧されている。緑豊かな自然環境である植物研究園および伊豆半島を中心とした接合藻類のサンプリングによって新たな系統保存株が取得できれば、将来的な環境汚染による接合藻類の消滅にも備えることができる。生態系を維持する上でも大きな貢献ができると考えている。