植物研究助成

植物研究助成 31-08

小型フーリエ変換近赤外分光器を用いた生葉中の様態の異なる窒素の同時定量法

代表研究者 三重大学 大学院生物資源学研究科
教授 橋本 篤

背景

 高品質な農産物の持続的な生産を目指したデータ駆動型農業が注目されているが、栽培環境情報に比べて栽培対象物となる農作物・植物体の生体情報に関する現場対応型の簡易計測法の技術開発はあまり進んでいない。そこで、簡易・迅速、非破壊的な計測が可能な光センシング技術が注目されている。近年、半導体の微細加工技術を応用した小型のMEMS FT-NIR(フーリエ変換近赤外分光器)が開発され、栽培管理を目的とした生体情報取得への展開が期待されている。

目的

 短波長域の赤外線である近赤外線は、長波長領域の赤外線よりも透過性が高いため、水分が多い農産物や食品などへの応用研究に利用されている。しかしながら、近赤外吸収スペクトルは中赤外吸収スペクトルと比較して吸収が弱く、その解析が困難である。本研究では、農業・植物栽培現場での利用が期待される小型FT-NIRを用いて取得した近赤外分光情報に基づき、栽培管理の指標となる生葉中の硝酸態およびタンパク態窒素の定量法の確立を目的とした。

方法

 硝酸-タンパク質混合溶液をろ紙に含浸させた湿潤葉モデルと、それを乾燥させた乾燥葉モデルをスペクトル測定試料とする。購入予定の小型FT-NIRに拡散反射プローブを装着し、2種類の葉モデルの近赤外拡散反射スペクトルを測定する。スペクトル解析には7500〜4000cm-1の領域の吸光度を二次微分したスペクトルを用いる。一方、現有のFT-IRを用いて取得した硝酸とタンパク質の中赤外スペクトルと葉モデルの近赤外スペクトルを二次元相関分光法により解析し、対象物質の基準振動に関係づけられた近赤外スペクトルの吸収帯を抽出する。また、2種類の葉モデルの近赤外拡散反射スペクトルを比較することにより、スペクトル解析結果に及ぼす水分含量の影響を明らかにする。

期待される成果

 本研究では、中赤外スペクトルと近赤外スペクトルを二次元相関分光法により解析するとともに、水分含量の影響を考慮して検量モデルの作成に用いる近赤外スペクトル情報を決定する。このように、定量モデルは分子の基準振動に基づいた情報をベースとしているため、汎用的な定量モデルとして利用できるものと考えられる。また、定量モデルの作成方法は、農業・植物栽培現場における近赤外計測の標準法となる可能性を有している。