植物研究助成

植物研究助成 31-10

植物栄養成分の電気化学センサーに対する夾雑物質の影響抑制技術の開発

代表研究者 京都大学 大学院農学研究科応用生命科学専攻
教授 白井 理

背景

 植物の生長時期に応じて必要な栄養成分の濃度を制御できれば、農作物の成長促進や高品質化が期待できる。専門的な知識や前処理等の操作を必要とせず、持ち運びが簡単で、且つ安価で容易に栄養成分濃度が測定できるイオンセンサの活用は魅力的である。しかし、圃場栽培では土壌中の水分量が一定ではないので、栄養成分量の制御は困難であり、センサの応答特性が低濃度領域では不安定であるなど課題があった。本研究では、低濃度側の応答特性の改善を試み、測定時の水分量を同時に測定することで定量的な栄養成分量の評価を目指す。

目的

 土壌中にイオンセンサを直接挿入して各イオン濃度の測定を行う場合、センサ用電極と基準となる参照電極間は十分な水相で満たされておらず、土壌粒子表面や隙間に介在する水相を介して二極間の電位差を測定する。したがって、二本の電極間をできるだけ近接させないと測定ができない。参照電極としては、一般的にAg|AgCl電極が利用されているが、Ag|AgCl電極を使用すると塩橋部分から内部電解質の KClが外部へ流出する恐れが高い。K+やNO3-のセンサの場合、10-3M(mol L-1)以下の濃度を測定する際にはK+やCl-の共存による影響や帯電した土壌粒子による妨害が現われ、正確な測定が行えなかった。そこで、内部溶液や塩橋内の電解質の流出の影響がなく、土壌粒子の影響も受けない測定系の構築を目的とする。

方法

 内部溶液に使用する電解質の流出による影響がない参照電極系を考案する。Ag|Ag+電極の使用や液間電位が無視できる液絡の構築、あるいは水素吸蔵金属の表面でのH2|H+対の酸化還元挙動を利用した参照電極を作製する。
 センサの感応膜が負に帯電した土壌粒子の影響を受けないように透析膜などを利用し、低濃度領域まで応答特性が変化しないように膜表面を改良する。

期待される成果

 従来は液間電位を発生させない意味でKClが用いられてきたが、液間電位が一定であれば使用可能であれば極めて親水的で無害の MgSO4を用いることで対応できる。また、水素のみを放出する系は、生体や環境のその場分析や食品・医薬品の品質管理にも適用できる。土壌粒子による影響をなくすことができると、土壌中の栄養成分のその場での直接測定が可能となり、有力な手法となる。