植物研究助成

植物研究助成 31-12

植物-病原体-昆虫の相互関係におけるウイルス感染の影響評価

代表研究者 新潟大学 自然科学系(農学部)
助教 湊 菜未

背景

 植物に感染して病気を引き起こすウイルスの多くは、昆虫によって伝搬される。昆虫媒介性ウイルスを中心とした「植物-ウイルス-媒介昆虫」の相互関係において、媒介昆虫は唯一能動的に移動・拡散する能力を持つ。したがって昆虫媒介性ウイルスは、媒介昆虫の宿主植物選好性を操作することにより自身の感染拡大を画策するが、このような病原体を介した種間相互作用が生態系の植物・昆虫群衆構造に与える影響については未だ知見が乏しい。

目的

 本研究の目的は、1)昆虫忌避物質に対する昆虫の感受性解析、2)ウイルス共感染による昆虫誘引メカニズムの解析、3)ウイルスによる昆虫操作機構の非媒介昆虫に対する影響の解析の3点によりウイルスによる昆虫の植物宿主選好性操作メカニズムを明らかにすることである。

方法

 本研究では、ムギ類を侵すウイルス、宿主植物としてコムギとミナトカモジグサ、および媒介昆虫・非媒介昆虫を用いて3項目について解析を実施する。まずウイルスの保毒が媒介昆虫の感受性に影響を与えるか調べるため、植物由来化合物に対する保毒昆虫の行動を評価する。次に、ウイルス共感染植物が単一ウイルス保毒虫を誘引する機構を調べるため、共感染植物より葉身中の有機化合物を抽出して候補化合物を比較・選定する。最後に、ウイルス非媒介昆虫を用いてウイルスによる誘引・忌避機構の宿主選好性への影響を検証する。

期待される成果

 本研究はウイルスの媒介昆虫操作戦略が非媒介植食性昆虫に与える影響を明らかにするものである。これまでに植物の昆虫忌避物質に対する感受性は昆虫の食性によっても異なることが報告されており、ウイルス感染に対する植物応答が生態系において植食性昆虫の群衆構造をも変化させる可能性が考えられる。植物病の甚発生に起因する植食性昆虫の行動変化により脅かされる植物生態系の保全に向けて、虫媒性病害・虫害に対する統合的防除技術の構築に向けた足掛かりとなることが期待される。