植物研究助成

植物研究助成 31-13

海中林保全手法の開発 −地域内ゲノミック選抜の有効性検証−

代表研究者 お茶の水女子大学 理学部
教授 嶌田 智

背景

 海中林と呼ばれる海藻群落は、海中に複雑な立体構造を形成し、熱帯雨林と同等の一次生産を行うことから、多様な海洋生物の重要な生息場となっている。しかし、海中林は世界中で激減している。したがって、海中林の保全は喫緊の課題であるが、これまでの保全活動は、食害防御ネットの設置など、局所的で一時的な効果に限られていた。一方、申請者の海中林構成種アラメの調査で、高水温条件下での光合成活性、高水温ストレスで発現変動する遺伝子、被食防御物質フロロタンニン量に地域差や個体差が検出された。この多様性を利用して、多くの適応遺伝子の効果と考えられる耐性能をゲノムワイドSNPsデータから予測し(ゲノミック予測)、その予測を用いて地域内の選抜育種(ゲノミック選抜)を行えば、安全で効果的な海中林保全が実現できると考えた。

目的

 そこで本研究では、地域全体で持続可能な海中林保全手法の開発を目指し、主要な海中林構成種アラメの地域内でのゲノミック選抜の有効性を検証する。本年度は、日本各地から高水温耐性や被食抵抗性の多様性を詳細に解析する。

方法

 アラメの生育南限である長崎県平戸、申請者のアラメ研究で最も遺伝的多様性が高かった静岡県下田(植物研究園を利用)、生育北限の宮城県気仙沼において、藻体片を採集する。採集藻体片を水温24-32℃で培養し、光合成活性、成長率、細胞生存率、光合成色素量、フロロタンニン量を測定する。

期待される成果

 本研究により、海中林の環境適応力の種内多様性が把握できる。また、本研究で得た耐性能データと、次年度以降に取得するSNPsデータからゲノミック予測を行い、各種耐性能をSNPsデータで予測できるようになる。この予測のもと、静岡県下田地域でゲノミック選抜を行い、地域内での効果的な育種が可能となる。本研究での世界初の海藻類のゲノミック選抜は、世界的に切望されている海中林保全にとって救世主となるだけでなく、各種有用海藻類でのオイル生産能、耐病性、成長率、呈味性に関するゲノミック選抜にも道が開ける。