植物研究助成

植物研究助成 31-15

シカ不嗜好性植物アセビ・シキミがもたらす他樹種の生存・生育への影響

代表研究者 宮崎大学 テニュアトラック推進室
准教授 徳本 雄史

背景

 落葉広葉樹林が広がる九州山地では、シカの食害により下層植生が消失し、シカが好んで摂食しない常緑性低木(不嗜好性植物)のアセビ(Pieris japonica subsp. japonica, ツツジ科)とシキミ(Illicium anisatum, マツブサ科)が優占している林分が見られる。地域の生物多様性保全の観点から、そのような林分への他樹種の移入促進のため、将来的にはアセビとシキミを伐採するなどの管理が必要と考えられる。しかし、これら2樹種は植物体内に他の生物にとって有毒な成分を含んでおり、それらの効果を評価せずに伐採することは他樹種の発芽・生育不良や、その後の表層土壌の露出による土壌浸食が起こる恐れがある。伐採後の2樹種の生態学的遺産効果(legacy effect)を評価することが、今後のこれら林分の状態予測や森林生態系の保全や復元に供することができると考えられる。本申請研究では、アセビとシキミが土壌生態系にもたらす効果と、それを介して他植物がどのような影響を受けるのかを明らかにする。

目的

 本研究では、1)アセビ・シキミ各群落と下層植生が失われた地点で、土壌環境と下層植物の動態を明らかにすることと、2)各地点の土壌を使ったポット実験により他樹種の生存・生育に及ぼす影響を明らかにする。

方法

 調査は宮崎県東臼杵郡椎葉村にある九州大学宮崎演習林内で実施する。
1)環境と下層植物の動態評価:アセビ・シキミ各群落、下層植生がない地点(コントロール)で、他樹種の移入や生残と、環境(光、土壌化学特性)、土壌中の微生物相を解析し、2樹種が土壌生態系と他樹種に及ぼす影響を評価する。
2)ポット実験:上記3地点の土壌に、他の植物の種子や実生を植えて発芽や生残・成長を測定する。2樹種を伐採した後の土壌が及ぼす影響を評価する。

期待される効果

 アセビとシキミが繁茂することで低下している生物多様性を保全しつつ、土壌侵食の防止も両立させるような管理(伐採して植生の回復を待つのか、またはそのままにしておくのか)に対する提言や新たな手法開発などが期待される。