植物研究助成

植物研究助成 31-16

種子の落ちない牧草を目指したイタリアンライグラスの脱粒性遺伝子座の解析

代表研究者 国立研究開発法人 農業・食品産業技術総合研究機構
上級研究員 田村 健一

背景

 国内で利用される牧草の多くは外来種であり、飼料畑や法面等から自然草地や河原等への種子の逸出による野生化により、在来種との競合・駆除等自然植生や生態系へ影響を及ぼす可能性が懸念される。イネやムギなどの穀類作物は、栽培化の過程において難脱粒性を獲得することにより、種子の逸出による野生化が抑制されている。一方、主に葉や茎等を利用する牧草においては、栽培化の過程において脱粒性の選抜が生じておらず、現状の品種は易脱粒性を示す。そのため牧草の野生化を抑制する手段の一つとして、脱粒程度の低い品種の開発は極めて重要である。

目的

 日本国内における代表的な冬作牧草であり、すでに広く野生化が報告されているイタリアンライグラス(ネズミムギ)を対象に、脱粒性に関わる遺伝子座を解析し、「種子の落ちない牧草」開発のための、基盤的知見を得る。

方法

 難脱粒性個体と易脱粒性個体のF2分離集団を対象に、脱粒性の評価を行うとともに連鎖地図の構築を行い、量的形質遺伝子座(QTL)解析により、脱粒性に関わる遺伝子座を明らかにする。また、近縁他種で同定済みの脱粒性に関わる遺伝子のイタリアンライグラスにおける遺伝子座を明らかにするとともに、遺伝子発現解析を行い、脱粒性との関係を明らかにする。

期待される成果

 通常の牧草育種においては、結実前に選抜・交配を行うため、結実後の選抜が必要となる脱粒性の評価を既存の育種工程に組み入れることは難しい。しかしながら、本研究により明らかにされる脱粒性に連鎖する遺伝子座をDNAマーカー化し利用することで、脱粒性の選抜を容易に育種工程に組み入れることが可能となる。そのようにして「種子の落ちない牧草」が開発されれば、種子の逸出による外来牧草の野生化を抑制することができ、自然生態系の保全に大きく寄与する。また畑作における牧草の雑草化の解消にもつながる。さらに牧草の種苗としての種子生産時における脱粒による種子のロスも低減できる。以上のように、将来的に「種子の落ちない牧草」が開発されれば、生態系の保全と持続可能な農畜産業の両立に大きく貢献できる。