植物研究助成

植物研究助成 31-17

気候変動による酸性土壌突破に向けた分泌性多糖類による毒性金属緩和機構の解明

代表研究者 筑波大学 生命環境系
准教授 岩井 宏暁

背景

 地球温暖化に伴い気候が変動し、大雨の頻度や強度が年々増大している。土壌は雨に曝されることにより酸性化し、土壌より毒性重金属を溶出する。植物が土壌の酸性化に伴い三価のアルミニウムイオン(Al3+)や銅イオン(Cu2+)が溶出し、植物の成長を阻害する。土壌酸性化による毒性金属イオン成長阻害は、世界の作物収量低下の要因とされている。毒性金属イオン耐性が強い植物では、根から有機酸を分泌することで、無毒化することがよく知られている。しかし、例えばアルミニウムでは、世界の主要穀物であるイネは、有機酸の分泌とアルミニウム耐性の相関が確認されないにもかかわらず、高いアルミニウム耐性を持っており、その仕組みは謎だった。しかし、申請者により、イネの根から分泌されるペクチンがアルミニウムの根への吸着を防いでいることを突き止めた。

目的

 本研究により、分泌性の多糖類や糖鎖が金属と結合し排除するという新しい毒性緩和方法を解明に挑むことで、現在の気候変動による土壌の酸性化に伴う収量減少課題のブレークスルーを目指す。

方法

 (1)新規の生命金属毒性緩和分泌性多糖類マーカーの探索。細胞壁改変株について、毒性生命金属存在下で生育させ、根の伸長に影響を与えた株の調査を行う。(2)細胞壁改変イネと金属輸送体変異イネを用いた分泌性多糖類による金属排除過程の可視化。毒性金属の動態をPETIS法によるRIを用いたリアルタイム元素動態解析により調査する。(3)細胞壁センサーについて、毒性金属誘導性について、RNAシークエンスを用いた発現解析などにより調査を行う。

期待される成果

 酸性化した土壌より流出した重金属の分泌性多糖類による毒性緩和機構という新たな研究領域は、今までにほぼ報告がなく独創的であると考えられる。また、本研究の成果により、細胞壁をデザインすることによる生命金属毒性緩和イネの作出し、酸性土壌突破するための農業に大きく貢献するものと考えている。