植物研究助成 31-18
根特異的なプロトン駆動力の増強による栄養塩吸収能力の強化
代表研究者 | 島根大学 研究・学術情報本部総合科学研究支援センター 助教 蜂谷 卓士 |
【 背景 】 |
社会のレジリエンス向上に向けて、従来の高施肥型から低施肥型の農業への転換が求められている。これを達成するためには、様々な栄養塩に対して高い栄養吸収能力を有する農作物の開発が有効である。根からの栄養塩の取り込みは、主に表皮・皮層細胞におけるプロトン駆動力によって駆動される。このため高いプロトン駆動力を有する農作物は、低施肥耕地でも効率よく栄養塩を吸収できると考えられる。一方、葉における恒常的かつ過度のプロトン駆動力の形成は、気孔開口を過剰に促進することにより、葉のしおれや植物体の成長阻害を引き起こす恐れがある。 |
【 目的 】 |
そこで本研究では、接ぎ木技術を用いて、根特異的にプロトン駆動力を増強することによって、葉からの水の損失を増加させることなく、様々な栄養塩の取り込み能力の増強を目指す。 |
【 方法 】 |
シロイヌナズナの野生株の穂木に野生株の台木を接いだ植物と、野生株の穂木に細胞膜プロトンポンプの活性化変異株の台木を接いだ植物(=根特異的にプロトン駆動力が増強された植物)を作成する。これらの植物を高施肥条件または低施肥条件でバーミキュライト栽培し、成長を解析後、植物体に含まれる栄養元素量をイオノーム解析により定量する。根のプロトン駆動力の増強によって含量が顕著に増加した栄養元素については、栄養塩の吸収速度や特異的な輸送体・チャネルの発現解析等も実施する。 |
【 期待される成果 】 |
本研究により、複数の栄養塩の吸収能力を一斉に向上させる技術の確立が期待できる。このような技術は持続可能な低施肥型の農業だけでなく、ファイトレメディエーションにも適用できる。また、根から放出されるプロトン量の増加によって、世界の陸地の約3分の1を占める不良なアルカリ土壌における農作物の栽培にも役立つ可能性がある。 |