植物研究助成 31-19
伊勢三河湾の塩性湿地植物の空間遺伝構造と保全策の検討
代表研究者 | 中部大学 応用生物学部環境生物科学科 准教授 程木 義邦 |
【 背景 】 |
閉鎖的な湾では、外洋からの潮汐振幅が湾奥に行くに従い増幅し干満差が大きくなるため、低平地や河川河口域に干潟や塩性湿地が形成される。このような環境に適応した維管束植物は塩性湿地植物と呼ばれるが、埋め立てや干拓、防災のための護岸や河床掘削、また、上流のダムの堆砂問題により、年々その生育地が減少し絶滅の危機に瀕している。 |
【 目的 】 |
伊勢三河湾で生育が報告されている塩性湿地植物のシオクグ、フクド、ハマサジ、ホソバハマアカザ、ハママツナ等を対象とし、(1)現在の分布状況および生育環境特性の解明、(2)保全遺伝学的手法を用いた遺伝的多様性解析、及び(3)積極的な保全対策が必要な地点を明らかにする。未来にわたって健全に保全するため、対象種の遺伝的多様性を個体群ごとに明らかにすると共に、実際の遺伝子流動を踏まえた保全策を提言する。 |
【 方法 】 |
1)現在の分布状況および生育環境特性の解明 三重県版および愛知県版レッドデータリストの対象種メッシュデータおよびさく標本の採集地点の記録から過去の分布域を特定し、2022年時点の分布状況把握を現地踏査により行う。また塩性湿地植物の生育地の環境特性を解明する。 2)保全遺伝学的手法を用いた遺伝的多様性解析 フクドやハマサジなど、塩生湿地植物に特異的なEST-SSRマーカーを開発・使用し、伊勢三河湾における対象種の遺伝構造と遺伝子流動を評価する。 3)積極的に保全すべき地点の特定 上記2の結果から、遺伝子流動の要となる地点や遺伝的多様性が低下し早急な保全対策が必要な地点を特定し、各地点での最善な保全策を検討する。 2022年度は、1)および2)で既存のマーカーが存在しない植物数種のEST-SSRマーカーの開発を試みる。次年度以降、空間遺伝構造解析を行う。 |
【 期待される成果 】 |
伊勢三河湾での塩性湿地植物の現時点での分布記載は、将来の分布調査で比較可能な情報となる。また、保全遺伝学的解析は、保全すべき個体群や遺伝子流動の要となっている個体群をあぶりだし、未来に向かって対象種の健全な遺伝的多様性を保持・保全するための明確な指標を提示可能となる。 |